光消しの山の悲劇

ある晩、都心から離れた小さな村に、佐藤圭一という青年が住んでいた。
圭一は都会の喧騒を逃れ、静かな環境での生活を求めてこの地にやって来た。
村は大自然に囲まれ、星空が美しいことでも知られていたが、その一方で、古びた伝説が村の人々の口伝えに残っていた。
村の北側には、時折奇妙な光が現れるという山があった。

圭一は友人にその伝説を聞き、興味を持った。
村人たちはその山を「光消しの山」と呼び、決して近づいてはいけないと言い伝えていた。
山に近づく者は、必ずその場所で「消えてしまう」と噂されていた。
この話を聞いた圭一は、逆にその真実を確かめたくなり、無謀にも光の出る時間に山へ向かう決意をした。

数日後、月が欠けて一番暗い晩、圭一は懐中電灯を持って山の麓に立っていた。
彼の周囲は静まり返り、虫の声さえも聞こえない。
心の中の好奇心と恐怖が交錯する中、彼は山の奥へと足を進めた。
急な斜面を登るにつれて、道が次第に険しくなり、周囲の暗闇が彼を包み込んでいく。

そして、彼がようやく山の頂上に辿り着いた時、そこには信じられない光景が広がっていた。
冷たい月明かりの中、目の前には淡い青白い光が、まるで幽霊のように揺らめいていた。
その光は、彼の周囲の空気を変えるような感覚をもたらした。
圭一は一瞬、心が奪われたようにその光を凝視した。

けれども、その瞬間、彼の視界が揺らぎ、光が急に大きく膨れ、そして消えてしまった。
圭一は驚き、足をすくませて後ろに倒れ込んだ。
再び周囲が暗闇に包まれる中、彼は立ち上がれることすらできずにいた。
暗黒の中で耳鳴りがし始め、心臓が高鳴る音だけが響く。

そして、彼の視界の隅にかすかな影が見えた。
圭一は恐る恐るその影に目を向けた。
そこには、村で何度も見かけたけれども、いつも笑顔で悲しい目をしていた女性、長井美咲の姿があった。
彼女は何かを訴えるように手を振っていたが、口からは言葉が出てこなかった。

圭一は瞬間に理解した。
彼女もまた、この光の中で消えてしまった一人なのだと。
彼の胸は締め付けられるように痛んだ。
圭一は美咲の助けになりたいと思い、手を伸ばそうとした。
しかし、美咲の姿は徐々に薄れていき、光が消えかけの蝋燭のように揺れながら、彼の方へと近づいてきた。

「助けて…消えないで…」という彼の願いも、冷たく響く風にさらわれていく。
しかし、助けを求める彼の声は虚しく、光が完全に消えた瞬間、周囲は静寂に包まった。
その後、村人たちは圭一を探しに来たものの、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
山の麓にはただ一陣の静寂のみが残され、彼の存在を忘れるかのように、夜空には星が瞬いていた。

それ以降、村の人々は「消えた男」として圭一のことを語り継ぐことになった。
そのたびに、美咲の切ない笑顔が彼の頭に浮かんできた。
そして、再び山へ行く者たちは、彼が消えた理由を語りながらも、決してその山に近づくことはなかった。
光消しの山は今もなお、彼らの中に異様な恐怖を植え付け、静かにその存在を忘れ去られることなく、そっと佇んでいるのだ。

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