光る壁の記憶

霧深い夜、健二は友人たちと共に町外れの墓地へと足を踏み入れた。
彼らは肝試しの一環として、この地に伝わる「光る壁」の噂を確かめようとしていた。
夜の静寂が墓地を包み込み、月明かりが墓石を淡く照らす。
その光景に、健二は少なからず不安を感じた。

「この墓地の奥にある壁が、光を放つって本当なのか?」友人の雅人が口を開くと、他の仲間たちも頷いた。
彼らの話によれば、壁に触れた者は、過去の出来事や亡くなった人々の思い出を鮮明に見ることができるという。
しかし、それには恐ろしい代償が伴うのだとか。

意を決した健二たちは、墓地の奥へと進んでいった。
すると、確かに存在する「光る壁」が目の前に現れた。
その壁は古い石でできており、一見すると何の変哲もないように見える。
しかし、近づくにつれて、微かに青白い光を発していることに気がついた。

「いっちょ、触ってみるか!」健二は急かし気に友人たちの背を押し、まず自らがその壁に手を伸ばした。
冷たい石に触れた瞬間、彼の視界が急に変わり、まるで時空を超えるかのように過去の映像が次々と映し出された。

彼の目の前に現れたのは、幼い頃の自分自身だった。
健二は、祖母の墓前で泣いている姿や、家族と過ごした楽しい時間を見た。
再びその壁に戻ってきた時、彼は懐かしさとともに、胸の奥に渦巻く切なさを感じる。
しかし、次の瞬間、それが悪夢に変わった。
壁の映像は、家族の笑顔から次第に歪み、涙を流す姿へと変わっていった。

「健二、どうした?」雅人の問いかけに気づき、彼は焦って手を引っ込めた。
周囲は静まり返り、壁の光も徐々に消えていく。
彼の顔色が青ざめていた。

「なんか、嫌な予感がする。これ、戻れなくなるんじゃないか…」震える声で告げると、友人たちも気を使うように声を潜めた。
「まだやめないか?他のことにしよう」と言って、彼らは一度その場を離れようとした。

しかし、その時、墓地の空気が微妙に変わった。
何かが近づいてくるような感覚を抱きながら、健二は振り向くと、不意に目を奪われる光がその壁から放たれていた。
また冷たい感触が彼の手にまとわりつく。
どうしても捨てられない思い出に引き寄せられるように、彼は再び壁に触れてしまった。

再度映像が現れ、今度は彼の人生の中で最も辛い出来事が浮かび上がる。
それは、親友のみのるが事故で亡くなった瞬間だった。
心臓が跳ね、思わず顔を背けると、映像は止まった。
彼の心には激しい後悔が渦巻き、光は強さを増していく。
彼は壁に隠された真実を知ってしまった。

「戻れ、戻るんだ!」友人たちの叫びが耳に入ってくる。
悪夢から呼び戻されるように、健二は必死にその場を離れようとしたが、足が動かない。
光る壁が彼を引き寄せ、今度は他の仲間たちもその影響を受け始めた。
壁は彼らの思い出を映し出し、それぞれの悲しみと向き合わせていた。

「みんな、早く離れろ!」との声が響く。
しかし、次の瞬間、彼らの周囲に強烈な光が包み込み、全てが真っ白になった。

目を開けた時、健二は墓地の入り口付近に戻っていた。
しかし、友人たちの姿が見当たらない。
薄気味悪い静けさが彼を包み込み、どうにかしてこの場所から離れなければと焦りが募る。
心の中で消えたはずの思い出が再び影を落とし、彼は全てが逆回転してしまったのかと感じた。

「光る壁の想いは、まだ終わっていないのか…」健二はただ、逃げ出すようにその場を後にした。
背後には、何かの気配がひたひたと忍び寄っているのを感じながら。

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