『誘われた永遠の影』

深夜、静まり返った院の廊下を歩く音が響く。
外はすでに暗く、月明かりが時折窓を照らし出す。
不安に包まれた心持ちで、私は自分の部屋へ急いだ。
院には何人かの患者がいたが、誰もいないかのように感じる。
ここは長い間、静かに病気と戦っている人々のための場所だった。
しかし、その静けさは時に不気味さを感じさせた。

私の名は沙耶。
重い病を抱え、ここに入院している。
周囲の人々と共に日々を過ごしながら、闘病の苦しみや不安を分かち合ってきたが、最近とても奇妙な夢に悩まされていた。
夢の中で、私はまるで別の世界にいるかのように感じた。
その場所は美しいが、同時にどこか冷たい、不気味な空間だった。

夢の中で出会うのは、病院の隣に佇む古い院の影だった。
そこの住人は、長い髪を持つ女性。
彼女は私に「永遠に解放されることはない」と囁いた。
私は彼女の目に宿る悲しみを感じ取り、その言葉が心に響いた。
何度もその夢を繰り返すうちに、私は彼女のことが気になり始めた。

どこか彼女の存在を引き寄せるものを感じていたのだ。
「なぜ、この夢を見続けるのか?」私は夢の中で問いかけた。
すると彼女は微笑みながらも、すぐにその表情を曇らせた。
「これは私がこの場所に引き寄せるためのもの。あなたは私と一緒にここに留まる運命なの。」

その言葉が私を恐れさせた。
逃げるように夢から目覚めるが、心の奥にざわめきが残った。
彼女は何を意味しているのか。
そして、どれだけ目を閉じても、その瞬間はくっきりと記憶に残った。

ある晩、再びその夢を見た。
彼女は私の手を掴み、何もない暗闇へと私を誘った。
「一緒にここで永遠に生きることができる」と囁く。
私はその言葉に恐怖を抱きつつも、どこか魅了されてしまった。
現実から解き放たれた先には、どんな世界が待っているのだろうと。

日が経つにつれ、夢の中の彼女と過ごす時間がどんどんと心地よく感じるようになった。
院の生活が現実に疲れ果て、彼女のもとに行くことが逃避の手段になり始めた。

ある日、目が覚めると、暗い院の部屋の中で動悸が激しく、冷汗が背中を流れる。
実際に彼女が私を意識的に誘導し、引き寄せようとしているのではないかと考えた。
私はその思考から逃れるために、誰かに打ち明けることに決めた。

隣のベッドにいる患者に話をしてみると、彼女は私の話を真剣に聞いてくれた。
が、彼女の表情は恐れに変わり、「あなたには引きつけられる何かがあるのかも。気をつけて」と警告した。
その言葉は、私に重くのしかかった。

その晩、私は再び夢に呼ばれた。
彼女がいつもと変わらず待っていた。
「なぜ、私のことを恐れるの?」彼女は問いかける。
私は恐怖心があることを伝えたが、彼女はただ微笑む。
冷たさを含みながらも、その目にはどこか懐かしさを感じた。

「この院から出てしまえば、また戻って来ることはできない。私たちの世界は永遠に繋がっているのだから」と彼女が言う。
その言葉が私の意識の奥底に響いてきた。
引き寄せられる感覚に、私は言葉を失った。

悪夢の中での彼女との交わりが続く中、私は次第にその存在から逃れられないように感じ始めていた。
目が覚めると、自分の身体が重く感じ、どこか彼女の影が身近に迫っているかのような気がした。

それから私は、彼女との交わりを断ち切るために必死になった。
毎晩のように院の明るい窓の外を眺め、現実に生きることを強く願い続けた。
私の心は、夢の世界に縛られそうになっていた。

しかし、ある晩、「今夜こそは」と決意して眠りについた。
暗闇に包まれる瞬間、夢の中で彼女は再度私を呼び寄せた。
その時、私は叫んでいた。
「もうあなたを受け入れたくない!私を解き放って!」

その瞬間、彼女は消え、夢の世界は崩れ去った。
目を覚ました私は、院のあの長い廊下に立っていた。
もう夢には訪れないと思ったと同時に、心の中に小さな隙間が開いた気がした。
彼女は永遠に夢の中に存在し続けることになり、私の側には戻らないだろう。

けれど、真夜中にふとした瞬間、あの院の廊下の冷たい風を感じると、心の奥に彼女の声がかすかに響くことがあった。
それは、異世界と現実が繋がる不思議な感覚であった。
私は、彼女の存在を忘れないだろう。
縛りつけられた思い出として、永遠に心に留まるのである。

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