深い夜の静けさが街を包み込む中、ある家の裏庭には、ひっそりとした小道が続いていた。
その小道の先には「ル」と名付けられた古びた建物があり、そこは廃墟のようになっていた。
しかし、そこには不思議な魅力が漂っていて、特に好奇心旺盛な若者たちにとっては近づきたくなる場所だった。
ある晩、猫を愛する友人たちが集まった。
彼らはその廃墟のことを聞き、廃墟に住むという不気味な猫の噂が気になって仕方なかった。
中でも一番興味を持っていた男の子、健太はその話に心を奪われ、仲間を誘って廃墟に向かうことにした。
「たぶんただの噂だよ」と友人の美琴が言った。
「ただの猫がずっとそこにいるだけじゃない?」
「いいや、きっと何かあるんだ。廃墟にしかできないことってあるだろう?」健太は興奮していた。
一行は好奇心に導かれるまま、廃墟へと足を踏み入れた。
廃墟は、外から見るよりも数倍薄暗く、まるで光の届かない異次元のようだった。
独特な湿気と靄が漂い、彼らはその中に少しずつ侵入して行った。
廃墟の真ん中には、ひときわ目立つ大きな窓があった。
しかし、その窓のすぐ近くには、まるで時が止まったかのように放置された猫の寝床があった。
「何かが起こりそうな場所だね」と美琴は言い、健太は頷いた。
「この場所で何か感じるかもしれないな。」
彼らが猫の寝床の周りを観察していると、突然、近くの影から一匹の黒猫が姿を現した。
それは何かに怯えるような目つきをしていて、まるで彼らに何かを訴えかけるようだった。
その瞬間、健太はその猫に魅了され、彼は猫に近づこうとする。
「待って、健太。あの猫、大丈夫なの?」と友人の一人が念を押した。
しかし、健太は猫に引き寄せられるように、さらに近づいて行った。
黒猫は、その瞳で健太を見つめ、まるで彼をナビゲートするかのように振る舞った。
その時、健太の頭の中に奇妙な声が響いた。
「此処へ来い、誰もいない世界へ。」
その声に戸惑ったが、健太はまるで操られるかのように、一歩一歩黒猫に従っている自分に気づいた。
友人たちは急に不安が募り、彼を呼び戻そうとしたが、健太はまるで別人のように歩き続けた。
「何が起こるのか、見極めたいんだ……」彼は呟いた。
そして、猫は急に振り返り、健太を廃墟の奥へと誘導した。
彼らの心の中には、強い執着が生まれていた。
やがて、健太は不気味な空間の中に足を踏み入れると、何かが融け合うような異質な感覚を得た。
周りの風景はゆっくりと変わり始め、廃墟の内部は一変した。
そこには、暗闇に包まれた小さな部屋があり、猫の色々な姿が浮かび上がっていた。
廃墟にいるすべての猫たちが、まるで彼に訴えかけるように、喚き続けているようだった。
「健太、帰って来て!」友人たちの声が遠くから聞こえるが、彼の身体は重く、動こうとしても動けなかった。
その時、黒猫が彼の前に現れ、一瞬の静寂が訪れた。
健太は恐怖と興奮が交錯する中、自分自身が執着の中に囚われていることを理解した。
彼はもう、元の世界へ帰ることはできない。
猫たちの声が彼の魂を浸食していく中、健太はただ廃墟の闇の中で永遠に執着し続ける存在となってしまった。
それからしばらくして、友人たちはその廃墟から逃げ帰ることになったが、その影に猫たちが潜むことは決して忘れないだろう。