「鳥の神に魅せられて」

深い山々に囲まれた村には、古くからの言い伝えがあった。
それは、「鳥の神」と呼ばれる存在が村の空を見守っているというものだった。
しかし、村の人々はその存在を恐れ、特に夜になると空に舞う鳥たちの声に怯えていた。

村人の中には、小林健太という少年がいた。
彼は好奇心旺盛で、どんな噂話も一度は信じるタイプだった。
ある日、健太は村の老人から「鳥の神には触れるな」という警告を受けた。
それだけでなく、夜静かに空を飛ぶ黒い鳥たちに出会ってはいけないとも言われた。

しかし、この警告にもかかわらず、健太はその存在に興味を抱き、友達の田中礼と手を取り合って今夜の冒険に出かけた。
彼らは暗い森を抜け、村の外れにある古びた広場にたどり着いた。
そこには、妖しく光る月の下で、無数の黒い鳥たちが集まっていた。
健太は心臓が高鳴るのを感じながらも、近づいてみた。

「これが鳥の神なのか?」と、健太は呟いた。
すると、鳥たちが一斉に彼らを見上げ、次の瞬間、一羽の鳥が空へ舞い上がった。
健太はその美しい羽音に魅了され、思わず手を伸ばした。
だが、周囲にいた鳥たちは一斉に鳴き声を上げ、まるで怒っているかのようだった。

「やめよう、健太。」礼が怯えた声で言った。
しかし、健太はすでにその鳥に心を奪われていた。
彼はその鳥が自分に近づいてくるのを感じた。
「多分、この鳥は何かを伝えようとしているんだ。」彼はそう信じて疑わなかった。

鳥が健太の手にとまり、その羽音は静まり返った。
しかし、不気味な寒気が彼の背筋を走った。
鳥の瞳を見つめると、その中には無限の闇が広がっているように感じた。
それと同時に、彼の心の中に響くような声が聞こえた。
「私はここにいる。気を吸い取る者。」

瞬時に、健太の体に異常を感じた。
彼の視界がぼやけ、次第に力が抜けていく。
礼は慌てて健太に取りすがり、「健太、大丈夫か?」と叫んだ。
しかし、すでに健太の意識は薄れていき、鳥の神の影が彼を包み込んでいた。

「来るな!」健太はようやく声を出したが、声は空へと消えていく。
その瞬間、鳥たちが一斉に飛び立ち、月明かりが照らす広場は静寂に包まれた。
健太は目を閉じ、意識が遠のいていくのを感じた。

気がつくと、健太はただの噂の一部として語り継がれる存在となってしまった。
彼の姿は村の中で消え去り、今では誰も彼の名前を口にすることはなかった。
夜空には、彼の代わりに新たに一羽の黒い鳥が現れ、村の上空を静かに旋回していると言われている。

その村では今もなお、夜になると黒い鳥の声が時折響き渡り、人々は恐れおののいているのだ。
そして、再び「鳥の神」の存在が誰かの心を盗み去るのではないかと、村人たちは日々戦々恐々と生きている。

タイトルとURLをコピーしました