小さな村の外れにある静かな森には、さまざまな種類の鳥が住んでいた。
村人たちはこの場所を「鳥の森」と呼び、鳥たちの美しいさえずりを楽しみにしていた。
しかし、その森には誰も口にしない秘密があった。
ある日、高校生の健二は、友人たちと一緒にその森に遊びに行くことにした。
彼らは、青い空の下でサッカーをしたり、緑の中でかくれんぼをしたりと楽しんでいたが、やがて日が暮れ始め、森の奥から聞こえる不気味な鳴き声に気づいた。
最初はただの鳥の声だと思っていたが、徐々にその声が変わり始めた。
まるで人間の言葉のように聞こえるのだ。
健二はその声に引かれるように森の奥へ踏み込んだ。
友人たちは不安になり、彼を止めようとしたが、健二は興味を抑えきれず、一人で進んで行った。
森の中は次第に暗くなり、彼は小道を進むうちに見知らぬ世界に迷い込んでいた。
そこには、不気味な雰囲気を醸し出す古びた鳥居が立っていた。
鳥居をくぐると、目の前に広がるのは美しい光景だった。
色とりどりの鳥たちが飛び交い、花が咲き乱れ、まるで別世界のようだった。
でも、その美しさの裏には冷たい空気が漂っていた。
何かが彼を呼んでいる。
健二はその声に導かれるままに、不思議な力に惹かれるまま、さらに奥へと進んで行った。
歩を進めると、一羽の白い鳩が彼の前に立ちふさがった。
その鳩はじっと健二の目を見つめ、まるで彼に何かを伝えようとしているかのようだった。
健二はその瞬間、突如として恐ろしい現象が起きたのを感じた。
彼の足元に、黒い影が伸びてきたのだ。
影は日に日に大きくなり、彼の体に絡みつくように迫ってきた。
背後から、彼の名前を叫ぶ声が聞こえた。
振り向くと、友人たちが心配そうな顔で立っていた。
「健二、戻ってこい!」友人たちの声に引き戻された瞬間、健二はその場から逃げ出すことにした。
しかし、鳥の声が彼の耳に残り、心の奥底で何かが叫んでいるのを感じた。
その後、健二はようやく友人たちのもとに戻った。
しかし、彼の中にわだかまりが残っていた。
それから数日後、彼は毎晩同じ夢を見た。
夢の中で彼は、あの白い鳩とともに暗い森の中をさまよい、鳥たちのさえずりを聞きながら、「選ばれた者」としての運命を背負うことになるのだ。
夢が続くうちに、健二は徐々に精神的に追い詰められていく。
彼は学校でも集中できず、友人たちとの時間を楽しむことができなくなってしまった。
やがて、鳥の声は彼の日常にも影響を及ぼすようになった。
彼は外を歩くたびに、どこからともなく聞こえる鳥の鳴き声に怯えるようになり、自宅にいるときもその声が耳から離れなかった。
そんなある夜、彼は再度、不思議な衝動に駆られ、森に戻ることに決めた。
今度こそ、全てを理解するために。
森の深部へ進むと、再びあの白い鳩が現れた。
しかし、それはただの鳩ではなかった。
健二はその鳩が彼自身の中で変わり果てた姿であることに気づく。
「あなたは私の一部なのです。私たちはひとつです。」彼の心の中で声が響く。
彼は恐怖を感じながらも、次第にその催眠的な感覚に引き込まれていく。
彼の意識が次第に消えていくと、周囲の光景が変わり、彼は永遠にこの森の一部となる自分を受け入れた。
その後、健二の姿を見た者は誰もいなかった。
ただ彼の名前と、「鳥の森」と呼ばれる場所で、彼の声が風に乗ってひたすらに響き続けるのだった。
「私はここにいる。鳥たちを迎え入れ、生を選ぶ者よ、いつでも来てください。」