薄暗い室の中に置かれた古びた家。
これは街の端にひっそりと佇む「鬼屋」と呼ばれる場所だった。
古い木材でできたその屋は、誰も近づかないという噂が立っていた。
そんな場所に足を運ぶ者などいない。
しかし、若い少年の春斗は、その噂に興味を抱いていた。
彼の友人たちは恐れて、決して行こうとはしなかったが、リーダーである彼は恐怖を振り払い、鬼屋の真相を確かめるため、一人でその屋へと向かう決心をした。
春斗は、薄暗い夜、懐中電灯を手にし、静まり返った空気の中を進んでいった。
鬼屋の扉を開けると、異様な気配が漂っていた。
冷気が肌を刺し、彼の心臓が高鳴る。
屋の内部は時が止まったかのように静まり返り、全てが埃に覆われていた。
薄闇の中、家具が無造作に散乱し、何十年もの間、誰も手を触れたことがないかのようだった。
春斗は懐中電灯の明かりを頼りに屋の奥へと進んだ。
途中で感じた異様な視線。
何かに見られている感覚は、悪寒に変わり、彼の背筋を凍らせたが、心の奥底にあった好奇心が彼を止めることを許さなかった。
突然、背後で物音がした。
振り返ると、闇の中から何かが現れた。
それは、鬼の姿をした存在だった。
目は赤く輝き、口からは歯がむき出しになった恐ろしい顔。
春斗は恐れを抱いてその場から逃げようとしたが、足がすくんで動けなかった。
鬼はゆっくりと近づき、「誰が入って来た?」と低い声で尋ねてきた。
春斗は何とか口を開く。
「私は、鬼屋の真相を確かめに来たんだ」と。
鬼は微笑んだ。
彼の表情は冷酷だった。
「この屋には、私の命が込められている。ここに住む者は、私の力の一部を奪うことになる。それを知っているか?」
春斗は息をのんだ。
屋が持つ力、それは命を奪うものだということを理解した。
彼は鬼の話を聞きながら、自分の心に恐怖が広がり、後悔が渦巻いていった。
鬼が言葉を続ける。
「私の力を奪った者には、必ず暴力がふりかかる。貴様もその仲間になりたくはないだろう?」
春斗は必死に逃げ出そうとしたが、鬼は彼の腕を掴んだ。
力強いその手に、春斗は抵抗することもできず、恐怖と絶望の中に沈んでいった。
鬼の声はさらに高まり、周りの空気が一変した。
「お前はもう逃れられない。私の命を奪う覚悟はできているのか?」
その時、屋の中に響き渡る声があった。
それはかつて鬼屋に住んでいた者たちの声だった。
「ここにいる者はみんな孤独だ。暴力と憎しみに囚われ、命を奪われてきた。あなたも命の一部を奪われてしまうのだ。」
春斗はその言葉に心を痛めた。
彼は命を奪う存在になりたくないと強く思った。
彼は懸命に腕を振り解こうとしたが、その力は強く、逃げ場はどこにもなかった。
周囲の空気が重くのしかかり、彼の心は恐怖と悲しみに満ちていた。
結局、春斗は命を奪われることの恐ろしさを理解した。
彼は自分がこの鬼屋に足を運んだことを後悔し、心の底から叫んだ。
「俺はもう二度と来ない! これ以上、命を奪わせないでくれ!」
その瞬間、鬼の手が離れた。
暗闇が彼を包みながら、彼は逃げ帰ることができた。
屋から逃げ出した春斗の心には、深い悲しみと恐怖が残った。
その後、彼は二度と鬼屋に近づくことはなかった。
しかし、彼の心には、鬼と屋が持つ恐ろしい力が影を落とし続けた。