秋の深まるある日、小さな村の外れに佇む古びた神社に、村人たちが耳にしたこともない怖い話が広がっていた。
その神社には「鬼の目」と呼ばれる不気味な伝説があり、神社の奥にある廃止されたお祈りの場には鬼が封じ込められていると言われていた。
鬼はかつてこの地を襲い、数多くの人々を食い尽くしたが、神社の御神木に封印されてからは、姿を現さなくなったという。
村人たちは淡々とこの話を語り継いできたが、好奇心旺盛な若者、佐藤と田中の二人は、あまりに恐ろしい鬼の目を確かめるために神社へと向かうことにした。
特に佐藤は、この神話が真実かどうか見極めたくてたまらなかった。
夕暮れ時、神社へと足を運ぶと、辺りは薄暗く、奇妙な静寂が広がっていた。
鳥居をくぐると、不気味な風が二人の頬を撫で、寒気が走った。
神社の中には、古びた石像が並び、まるで二人を見つめているようだった。
田中は一瞬、恐れを感じたが、「大丈夫、何も起こらない」と自分に言い聞かせた。
奥の祈祷場に近づくにつれ、二人の心拍は徐々に上がっていった。
佐藤が一歩前に出たその時、彼の目が石の祈祷壇に何かを見つけた。
「おい、見てみろよ!」佐藤が指をさすと、田中も目を凝らした。
壇の上には、赤い目を持つ小さな鬼の石像が置かれていた。
二人はその目がまるで生きているように光っていることに気づいた。
恐怖が胸を締め付け、田中は一瞬引き返そうと思った。
しかし佐藤は興奮して、「これが鬼の目なんだ!」と声を上げ、近づきすぎた。
その瞬間、鬼の石像の目が彼に向けられ、恐ろしい低い声が響いた。
「何故、私を起こしに来た?」
佐藤は一瞬驚き、身動きできなかった。
田中はすぐに後ずさりし、恐怖のあまり小さく悲鳴を上げた。
「帰ろう、佐藤!ここは危険だ!」佐藤は呆然としたまま、石像の目に釘付けになっていた。
鬼の目はさらに光を増し、周囲が赤く染まるように感じられた。
「私を見続けてはならぬ。目を逸らすが良い。」その声が再び響く。
二人はその言葉を聞き、恐ろしさに駆られた。
佐藤は何とか意識を取り戻し、田中に向かって叫んだ。
「目を閉じればいいんだ、目を逸らすんだ!」田中はすぐに目を閉じ、必死に耳を塞いだ。
しかし、佐藤はそのまま石像を見つめ続けた。
このままではいけないと感じながらも、彼はその目が放つ不思議な引力から逃げられなかった。
鬼の目から射られる光は、佐藤の身体を侵食していくように思えた。
彼の意識は次第に薄れていき、周囲の景色が歪んで見え始めた。
それでも彼は、田中を守ろうと決心を固めた。
「俺は、絶対に負けない!」と叫んだが、その声は恐怖に飲み込まれた。
しばらくして、田中は恐る恐る目を開けた。
すると、目の前には何も無くなっていた。
佐藤は消えていて、ただ鬼の石像だけが静かに佇んでいた。
「彼を返せ!」と怒鳴る田中。
しかし、鬼の声は冷たく響いた。
「彼は選んだのだ。私の力を。」
田中はその場から逃げ出すように神社を後にした。
帰り道、彼の心に残ったのは友人を失った深い悲しみと、鬼の目の不気味な印象だけだった。
以後、村では鬼の目の伝説はさらに恐れられることとなり、誰もが神社には近づかず、彼の友人である佐藤のことを話すこともなくなった。
無惨な物語は、今も静かに語り継がれている。