「鬼の封印と心の闇」

静かな夜、月明かりが間の町を包み込んでいた。
そこに住む小さな家には、一人の青年、翔がいた。
彼はこの町の伝説、鬼の話を耳にしたことがある。
町の外れに住む人々は、鬼がうわさされる場所から目を背け、絶対に近づかないようにしていた。
翔はその話を信じていなかったが、好奇心が彼をその場所へと導いた。

人々が恐れる「鬼の封印」と呼ばれる場所が、町の古い寺の裏手に存在する。
そこには、かつて鬼がこの世界に現れ、悪さを働いていたと言われる。
村人たちは協力し、鬼をその場所に封じ込めるため、特別な呪文を唱えたと伝えられている。
しかし、時が経つにつれ、その話は次第に忘れ去られ、現在では誰もその封印を気に留めることはなかった。

ある晩、翔は月明かりの下、古い寺の後ろを目指して歩き出した。
彼の心には期待と恐れが交錯していた。
「もし鬼が本当にいるのなら、どんな姿をしているのだろう」と思いを馳せながら、足を進める。
彼は、その場所につくと、周囲の空気がひんやりと変わったことに気づいた。

目の前に立つ石の封印は、苔に覆われ、ひび割れていた。
その様子はまるで、長い間誰も訪れなかったかのようだった。
翔は恐る恐る手を伸ばし、封印の表面を触れてみた。
すると、瞬間に耳をつんざく音が響き渡り、地面が揺れた。
翔は驚き、後ずさりする。

辺りが急に静まり返る中、翔は次第に周囲の異様な変化に気づく。
周りの風景はぼやけ、視界が揺らぐ。
そして、彼の目の前に鬼の姿が現れた。
黒い髪と赤い肌、鋭い牙を持つ恐ろしい外見で、目はまるで深淵のように暗い。
鬼の存在に翔は息を呑み、動けなくなった。

「人間よ、何故この地に来た?」鬼は低い声で問いかける。
その声音は、まるで彼の心に直接響いているようだった。

「ただ、気になったから…」翔はうわずった声で答えた。

鬼は一瞬静かになり、不気味な笑みを浮かべた。
「私はこの間に封印された存在だ。しかし、本来はこの世に生きている。だから、お前の魂を私に捧げるがよい。」

翔は恐怖で体が震えた。
彼はその場から逃げ出そうとしたが、足が動かない。
鬼の言葉が彼の心に深く入り込んできて、まるで自分の意志を失ってしまったかのようだった。

「私の存在を知ってしまったお前は、一度でも全てを知るのをやめることはできない。この場所に来たということは、私の食事だ。」

その瞬間、周囲がざわめき、翔の視界がさらに歪んでいく。
彼は目の前の鬼の姿に、自らの過去や、本当に恐れていたものが何かを思い出させられた。
自分自身の内面に潜む「鬼」と向き合うことになったのだ。

翔は心の奥から、自分が今まで背負ってきた罪や後悔を思い出した。
それは、彼の心をつかみ、強く引き寄せてくる。
しかし、そんな状況でも彼は決して諦めなかった。
彼は小さく呪文を唱える。

「目覚めよ、私の意志。お前には、私の心は触れさせない。」

その瞬間、鬼の顔が歪み、彼を包んでいた暗闇が崩れていく。
翔の意志が、彼自身を守る力になるのか。
鬼は苦しむように叫び、そして姿を消していった。

静寂が戻る中、翔は全てが夢のように感じていた。
しかし、心の中に生き続けるその感覚は、決して消えることはなかった。
町へと帰る彼の背中には、過去を振り返らないという固い覚悟が浮かんでいた。
彼は今、この「間」と呼ばれる世界から解放された。
しかし鬼の存在は消え去ったわけではなく、彼の心の闇として、いつまでも付きまとっていたのだった。

タイトルとURLをコピーしました