「鬼の代償」

ある静かな村に、平和な日常が流れていた。
人々は穏やかに生き、日々の生活を営んでいた。
しかし、その村には古くから語り継がれる怖い伝説があった。
それは「鬼の存在」だった。
鬼は山の奥深くに棲み、ひとたび怒らせると、村人に恐ろしい災いをもたらすと言われていた。
そのため、村人たちは鬼のことを恐れ、決して山に近づくことはなかったのだ。

しかし、ある年の夏のことだった。
村に住む一人の青年、翔太は、平穏な日常に退屈を感じていた。
彼は仲間と共に遊び、時には酒を酌み交わす毎日を送っていたが、ふとしたきっかけでこの鬼の話を聞くと、彼の好奇心が刺激された。
「一度、鬼を見てみたい」と思った翔太は、仲間を誘って山へと向かった。

彼らは山の入り口で、村の教えを忘れ、興奮に胸を膨らませていた。
「鬼なんているわけないさ」と、仲間は笑い合った。
しかし、翔太はその言葉に不安を覚えていた。
村人たちが恐れるものには、何か理由があるのではないかと。
しかし、彼はその不安を飲み込むと、皆で山を登り始めた。

山の中腹まで来た頃、空が急に暗くなり、風が冷たく吹き始めた。
翔太たちは不吉な予感を抱えながら、さらに奥へ進んだ。
そして、気がつくと、彼らは一つの空き地に出た。
そこには、祭りのように飾られた古い神社があった。
「こんなところがあるなんて、面白いじゃないか」と、仲間の一人が言った。

翔太はその神社に近づくと、ふと足元に不思議な模様を見つけた。
それは、何か大切なものを意味するような、異様な文様だった。
「これ、何だろう?」周りの仲間に尋ねると、一人が不気味な笑みを浮かべた。
「もしかして、鬼の償いの印かもな。お前たちがここに来たからには、代償が必要だろう」と言った。
翔太はその言葉にさらに不安を募らせた。

その瞬間、あたりが急に静まり返り、何かがやってくる気配を感じた。
翔太たちは恐れおののき、後ろを振り返った。
すると、彼らの目の前に現れたのは、真っ黒な影を持つ鬼だった。
角が生活し、真っ赤な目で彼らを見つめていた。
翔太は言葉を失い、仲間も絶望に打ちひしがれていた。
鬼は、彼らに近づいてきた。

「血を求める者、何を得ようとして山を越えたのか?」鬼は低い声で問いかけた。
翔太は思わず、心の中で何かを叫んだ。
「俺たちは、ただ平穏な日々を求めていただけだ!」すると、鬼は一瞬静止した後、笑みを浮かべた。
「では、平穏を手に入れたいのなら、代償を払うがいい」

翔太たちはその言葉に驚愕した。
彼らには、何も準備ができていなかった。
恐怖に駆られて、翔太は必死に教えを思い出し、鬼に呟いた。
「俺たちは償いをしないといけないの?何が必要なんだ?」

「過去を見つめ、己の心を直視せよ。償える者は少ないのだ」と鬼は告げた。
翔太は心の中で、これまでの自分を振り返った。
幼い頃からの過ち、村の人々への無関心、何よりも仲間を引き連れてこの山へ来たことへの罪悪感が押し寄せてきた。
彼の心は平穏以上に、大きな代償を求められていると感じた。

彼は必死に言葉を紡いだ。
「俺はもう一度、平和に生きたい。また悪いことをしないと誓う。心から謝罪し、償う!」

すると鬼はしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。
「心を得よ。果報は後に来る」翔太の心に薄い明かりが灯り、彼は山を下りることができた。

それ以来、翔太は鬼の償いを果たし、山の奥で生き続ける鬼の存在を心に留め、村の平和を守ることを決意した。
しかし、彼が本当に償ったかどうかは、彼自身もわからないままであった。
彼の心の中に鬼が留まり続け、いつかその償いの果が試される日を待っているのかもしれない。

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