「駅の隅に潜む目」

深夜の駅は静まり返り、薄暗い明かりの下、ひとりの青年がホームでたたずんでいた。
彼の名は佐藤誠。
タクシーがつかまらず、終電を逃してしまった彼は、深夜バスの出発までの時間をつぶすため、この駅に残ることにした。
駅の周りは閑散としており、いつもと何かが違っているような、不穏な空気が漂っていた。

誠は駅のベンチに腰を下ろし、ぼんやりとホームを眺めていた。
細長い駅は、まるで彼を取り巻くかのような存在で、周囲の静けさが織りなす雰囲気は、まるで彼を包み込むかのようだった。
彼の目には、何かしらの異常を感じていた。
ひと気のないホームをじっと見つめると、彼は不意に感じた。

目が、どこかからこちらを見ている。

その視線は無数に感じられた。
誠は薄暗いホームの向こう側を見る。
何も見当たらない。
ただ冷たい鉄のレールが伸び、遠くの闇の中に消えていく。
その間、彼の心の奥では不安が膨らんでいく。
振り返りたくても、何かに阻まれているかのようだった。

突然、彼の耳元で「助けて」と囁く声が聞こえた。
声はまるで風のように柔らかく、怯えた少女のものに聞こえた。
誠は思わず振り向くが、そこには誰もいなかった。
しかし、心の奥では確かにその声に引き寄せられるように感じていた。
彼は意を決して、声のした方に足を進めることにした。

ほのかな光の中、彼が進んでいくうちに、駅の壁に「目」という文字が浮かび上がってきた。
醜く奇妙な文字が、まるで彼に語りかけているようだった。
そして、心の奥の不安が次第に恐怖へと変わっていく。
「目」……それは、彼に何をもたらすのだろうか。

「なぜ私を呼ぶの?」誠は声がした方向に問いかける。
すると、彼の目の前に少女の姿が現れた。
彼女の目は異常なほど大きく、彼をじっと見つめていた。
彼女は月明かりのように輝く白い服をまとい、その表情は執拗なまでに誠に執着しているように見えた。

「助けて……私の目が……」彼女は再び囁いた。
その言葉の意味を理解する間もなく、彼の心は締め付けられるように重くなった。
彼女の目は何かを求めている。
彼女の目を通じて、何かが呪われているのだと。

誠は少女の前に立ち尽くし、彼の心が揺れ動く。
「君は誰?なぜここにいるの?」声をかけても、彼女は黙ったまま彼を見つめ続けた。
その目は、彼の心の奥に執着し、逃げられないような感覚に襲われた。

「目。」少女の声は再び囁く。
それは彼の心の中の呪いのように響いた。
彼女の執着は全身を包み、誠はその場から逃げ出したい衝動に駆られた。
だが、彼の足はその場から動かない。
まるで、彼女の目が彼を縛っているかのようだった。

「私に目を分けて……」彼女の囁きはさらなる恐怖を呼び起こす。
誠は絶望的な思いに駆られながら、自分がどれほど彼女に執着されているのかを感じた。
無垢な心の持ち主であった誠だが、その瞬間、何かが壊れ去るのを感じた。
無邪気さを手放さなければならないのか……。

「助けて!」彼はさらに大声で叫ぶ。
しかし、彼の声はどこへも届かず、少女の目だけが彼の心に根を下ろしていく。
彼は彼女の思いを受け入れることができなかった。
最後の力を振り絞り、誠はその場を離れようとしたが、すぐに彼女の目が彼を捕まえ、再び引き寄せた。

それから彼は目の前の少女を見失い、深い闇に飲みこまれていった。
目が彼の心を呪い、彼は執拗に囚われ続ける。
翌朝、その駅に訪れた人々は、ただの空虚なベンチと不気味な気配を感じるだけだった。
そして、佐藤誠の姿は、誰にも気づかれぬまま、ゆっくりと薄れていった。

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