陽は静かな山あいの村に住む、普通の女子高校生だった。
この村は自然に囲まれた美しい場所で、四季折々の風景が楽しめる。
しかし、その裏には、過去に悲劇が繰り返されたという噂があり、村人たちはその事実について口にすることを避けていた。
特に、村の外れにある古い平家の跡地には、忌まわしい記憶が眠っていると言われていた。
ある日、陽は友人たちと一緒に、その跡地へ探検に行くことに決めた。
村ではその場所に近づくことをためらう人も多かったが、陽は好奇心に駆られ、何も気にせずに足を運んだ。
古びた家の壁に触れると、何故か彼女は一瞬、奇妙な匂いを感じた。
それは、甘くて重たく、どこか懐かしい香りだった。
彼女はその匂いに引き寄せられるように、家の奥へと進んでいった。
古い畳の上を踏みしめると、陽は自分の心臓が高鳴るのを感じた。
照明がないため、彼女の周りは薄暗く、かすかに見える光が不気味な影を作り出している。
すると、またその匂いが強くなり、まるで何かが彼女に呼びかけているように感じた。
「復讐」という言葉が、脳裏に響く。
陽は一瞬、背筋を凍らせた。
しかし、好奇心が消えない。
彼女はその匂いの方向に歩みを進めると、壁際に小さな扉を見つけた。
破れた和紙が貼られており、その向こうには真っ暗な空間が広がっている。
無意識のうちに扉を開けると、暗い部屋の中から、さらに匂いが漂ってきた。
部屋の中は異世界のように静まり返っていた。
その中で陽は、自分が昔、この家に住んでいた家族のことを聞いたことがあるのを思い出した。
彼らは悲劇的な運命に見舞われ、復讐心に燃えた何者かによって命を奪われたという。
そして、その恨みは未だに家の中に残っているのだと。
しかし、陽の心はそのことを考えるほどには恐れを感じていなかった。
しばらくすると、陽の目の前にうっすらと影が現れた。
最初はただの影だと思ったが、その形が次第に鮮明になり、幼い少女の姿を持っていることに気付いた。
少女は黒い衣を纏い、虚ろな目をして陽を見つめている。
不安を覚えた陽は一歩後退したが、少女はじっと彼女を見つめ返した。
「来てくれたのね…私を助けに」と、少女は囁いた。
その声は甘く響き、しかしどこか冷たさを伴っていた。
「私はここでずっと、一人ぼっち…復讐が終わらない限り、解放されることはないの。」
陽は恐怖に駆られたが、無意識のうちにその場から逃げようとはしなかった。
少女の言葉には、何か惹きつけられるものがあったからだ。
「何が起こったの?」陽は思わず訊ねた。
少女はゆっくりと語り始めた。
家族への恨みと、愛していた人々を奪われた痛み、その復讐のために今もこの場所に留まり続けているのだと。
「私に力を貸して、私の代わりに復讐を果たして…」少女の目が光を宿す。
しかし、その瞬間、陽はその選択が自分をどれだけ危険な道に導くかに気付いた。
彼女は勇気を振り絞り、「私はお手伝いできない」と言った。
少女の表情は瞬時に変わり、「もう戻れないよ…」と呟いた。
そして影は次第に薄れていき、陽は急いで部屋を出て、平家を後にした。
外に出ると、村は静まり返っていた。
甘く重たかった匂いは消え、ただ普通の風景が広がっている。
陽はその出来事を思い出しながら、恐怖が心に刻まれた。
しかし、その影響が彼女の心に何かしらの変化をもたらしたことは確かだった。
復讐の影は、いまだそこで静かに眠っているのだろうか。
そしてそれを求める存在が、陽の周りで忍び寄ってくることを感じる。
陽はそれを振り払うことができるのだろうか。
彼女は村を離れることを決意したが、その選択がどのように運命を変えるのか、今はまだ知る由もないのだった。