夜も深まり、静まり返った道を歩くのは佐藤という若者だった。
佐藤は友人たちと肝試しをするために、山へ向かう途中であった。
だが、その山道は不気味な雰囲気を漂わせており、どこからともなく感じる冷たい風が彼の背筋をぞくぞくさせていた。
道の両脇には古い木々が生い茂った。
どの木もまるで記憶を秘めているかのように、不吉な姿をしていた。
佐藤は仲間と話しながら足を進めたが、その道が一体何を抱えているのか、どこか引っかかるものを感じていた。
しばらく歩くと、前方に小さな看板が見えた。
その看板には「この先、飛びはねる幽霊に注意」と書かれていた。
友人たちは笑い飛ばし、わざとらしくおどけてみせたが、佐藤の心には見逃せない恐怖が広がった。
何の気なしに彼はその文字を目でなぞった。
「やっぱりおかしいよな。こんな看板、マジであるんだ」と言った友人の高橋が、嫌味混じりに笑った。
しかし、佐藤はその笑顔の裏にちょっとした不安を感じていた。
「幽霊なんて、いるわけが…」彼が言いかけたその瞬間、冷たい風が吹き抜け、彼の耳元でかすかな声が聞こえた。
「助けて…」
驚いた佐藤は立ち止まった。
仲間に振り返ると、彼らはどうしているのかと不思議そうに見ていた。
「お前、どうした?」と友人が尋ねる。
だが、佐藤はその声が思考をそらすのを嫌い、そのまま進むことにした。
その道を進んでいくと、不意に目の前に飛び跳ねる白い影が現れた。
佐藤は息を飲んだ。
影は奇妙な動きで前後に揺れ、まるで彼を誘導するように道を切り開いていく。
友人たちは恐怖のあまり身をすくめ、何かを叫ぶよりも前に動き出していた。
署名のない道の先には、古びた鳥居があった。
闇に包まれたその入口は、いまや不気味なオーラを放っている。
影はその鳥居の前で、ゆっくりと立ち止まった。
「行ってはいけない…行ってはいけない」と心の中で繰り返しながらも、佐藤は目の前に現れたその影に引き寄せられていた。
友人たちは引き止めようとしたが、佐藤は動けなかった。
彼の中に、何かが解き放たれるような感覚が広がっていたのだ。
影は彼らに向かって再び言葉を発した。
「助けてほしいなら、私の側にこい…」その声は普通の言葉ではなく、辺りが静まった後に囁かれるような響きを持っていた。
佐藤は震えながら一歩を踏み出した。
次の瞬間、彼の目の前に広がったのは、かつて何人もの人々が通り過ぎた道の跡であった。
人々の怒りや悲しみ、希望と好奇心が交差するその異様な光景に、同じように立ち尽くす彼の友人たちもつられてその光景に引き込まれていった。
「僕の姿を見られた者は、いつか自らもこの道を歩く運命になる」と影は告げた。
目の前の道がゆっくりと歪み、佐藤の心の中には、かつての情熱や混乱が乗り越えられない壁として積み重なっていく。
彼は必死に逃げ出そうとしたが、身体はまるで無弦の弓のように硬直していた。
やがて、背後から聞こえる足音が彼を現実に引き戻した。
目の前の影は、その姿を徐々に薄めていく。
逃げたいのに逃げられない彼の心の中で再び浮かび上がったのは、自分が求めているものはなんなのかという問いだった。
「解放される時が来る」と影は最後に囁き、道が元に戻ると同時にその姿も消えた。
残された佐藤は自分が何を求めていたのか把握することができず、ただアスファルトの冷たさを感じる。
佐藤は思い出した。
いつの間にか彼は心の中に賜られた希望を置き去りにし、ただ影に引き寄せられた。
その夜、彼は一体何を失い、何を見失ったのか、恐怖の中で自問自答を心の中に溶かし込むのだった。