「飛び立つ影の真実」

静かな村に住む、少青年の浩志は、中学校での部活を終えた後、いつも独りで帰る道を通っていた。
その道を通るたびに、浩志は不思議な現象に遭遇していた。
それは、空を舞う小さな神のような存在だった。
周囲の状況とはかけ離れた美しい光のさざ波を描きながら、何度も彼の目の前をひらひらと飛び回っていた。

この現象は徐々に彼を惹きつけ、彼の心の中には神秘的な存在としての、飛び立つその光の影が刻まれていった。
「あの存在に触れたい」「自分もあのように飛びたい」と思う浩志の気持ちは、次第に強くなっていった。
彼の心は、現実の世界では手に入れられない自由を求めていた。

だが、その日、何かが変わった。
いつもとは違って、その光の存在が彼の周りを飛び回り続けると、浩志はどこか心地よい気持ちを抱くと同時に、胸に圧迫感を感じ始めた。
ある瞬間、彼はその影に引き寄せられるように、身をかがめて飛びたとうとした。
思わず口にした言葉は、無意識の内に出た。

「私も飛びたい。自分を見つけたい」

その瞬間、空気が渦を巻き、浩志の体が浮かび上がる感覚がした。
まるで彼の中に秘められた何かが解放されたかのように、重力が消える。
次の瞬間、彼は地面から離れ、静止した時間の中で彼自身もこの不思議な現象の一部になったように感じた。
しかし、飛び立った先には、彼が求めていた自由とは別のものが待っていた。

まるで真っ白な空間の中に引き込まれていくかのように、浩志は見えない何かに包みこまれた。
周囲には彼が今まで知っていた村の風景が壊れ、彼の知らない美しさと共に、いつも見ていた懐かしい景色が崩壊していく。
彼は「飛ぶ」ことを得たのに、その同時に、自分の居場所を失う恐怖に立たされていた。

「自分にとっての自由とは何なのか」と、浩志は心の奥深くで問いかけるように思った。
彼は流れる光に、過去の自分を投影しながらなぜか涙が溢れた。
多くの思い出が、見えない手により一つ一つ剥ぎ取られる感覚。
彼の心にとって大切な物が、無情にも壊されていく。
それでも、彼はその光に手を伸ばした。

「自分を見つけたい」と願った結果、彼は自分自身を手放しつつあったのだ。
自由を求めることは、決して容易な道ではない。
「飛ぶこと」を求めたその欲望が、自身の存在をも壊してしまうかもしれないと気づいた時、浩志は恐怖感に苛まれた。

彼はさらに深く迷い込み、自分を失う恐怖が強まる。
無限の空間の中で「どこかにいる自分」に呼びかけるも、どこにも自分の姿は見当たらなかった。
目の前に現れた小さな光は、彼の心の奥でずっと守ってきた自己の一部だったが、消え去っていくように思えた。

やがて、浩志の意識が雪崩れ込み、彼は迫り来る闇に飲み込まれた。
目の前にはかつての村の光景が再現されるも、自分の存在はそこにない。
穏やかな生活と共にかつての自分が壊れていき、何もかもが過去のものとなってしまった。

そして、浩志の目に映ったのは、かつての村の姿だったが、全てが崩れ、消え去ったことを示すように、周囲には静けさがだけが広がっていた。
彼が夢見た自由は、彼自身の存在を壊す恐ろしい代償を伴っていたのだ。
あの光の影のように、彼はただの過去に埋もれて、次第に誰も思い出さない存在になってしまった。
彼が求めていた「自」を見つけることは、決して出来なかったのだ。

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