深夜の公園。
薄明るい街灯が点在するこの場所は、人々が昼間の喧騒から逃れるために訪れる静けさを持っていた。
しかし、夜が深まるにつれ、公園の奥にある古びたブランコが誰もいないはずの場所で揺れているのを目にする者は少なくなかった。
地元の中学生、翔太は友人たちと一緒に遊びに来たことをきっかけに、この公園の噂を耳にした。
それは、昔、ここで女の子が事故に遭い、その子の魂が今もこの地に居続けているというものだった。
誰かによれば、その女の子の名は「美咲」だと言われていた。
その夜、翔太は恐怖心を抱きつつも、意を決して一人で公園に戻ることにした。
彼は何か特別なことを見つけたかったからだ。
薄暗い公園に足を踏み入れた瞬間、何かが彼の背筋を冷やした。
心臓が高鳴り、汗が額ににじむ。
ブランコの近くに立つと、まるで誰かに見られているような感覚に襲われた。
その時、翔太は思い出した。
実は、彼は数年前に美咲の弟と友達だったが、美咲が亡くなった後、翔太はその悲しみを理解できず、何もできなかったことを後悔していた。
彼は自分の無力さを呪い、時折夢の中で美咲の顔を見ては、謝りたい気持ちに苛まれていた。
「ごめん、美咲…」翔太は小さな声で呟いた。
すると、突如ブランコが静まったと思った瞬間、周囲の風がひゅるりと吹き抜けた。
翔太は目を閉じ、彼女に心の底から償いの言葉を送り続けた。
その時、不意に背後から柔らかな声が聞こえた。
「どうして謝っているの？」驚いて振り返ると、そこには美咲が立っていた。
彼女は淡い光をまとい、優しい微笑みを浮かべていた。
翔太の思いを直接受け取ったのだろうか。
言葉が詰まり、彼はただ彼女を見つめることしかできなかった。
美咲は続けた。
「私のために謝らなくていいよ。もう、私はこの場所から解放されたかったんだから。」翔太は困惑した。
美咲がそう言うなら、何故彼女はこんなにも彼の心に影を落としているのだろう？
「でも…」翔太は口を開いた。
「君を助けたかった。あの日、僕がもっと強ければ…」
美咲の表情が変わった。
「償う必要はないの。私の事故は私の選んだ道だった。今は私が人々を見守る役目を背負っているの。あなたの気持ちもわかるけど、もっと自分を大切にして。」
その瞬間、翔太は彼女の言葉の重みを理解した。
呪縛のように思い続けていたのは、実は自分自身が作り出したものだったのだ。
「でも、どうすればいい…？」翔太は思わず泣きそうになった。
「私を思い出すことであなたが生きていくのが、私にとっての救いなの。」美咲は微笑み、手を差し出した。
「だから、もっと前に進んで、悲しみを背負わないでほしいの。」
翔太は彼女の手を取ろうとしたが、次の瞬間、彼女の姿が薄れていく。
目の前に現れたのは、彼の記憶の中の美咲だった。
今度は明るい未来を照らすような笑顔で。
翔太は彼女を見守る決意を固め、自らの人生を大切に生きることを胸に誓った。
朝日が昇る頃、翔太は公園を後にした。
美咲の存在を心に留めながら、その思い出が彼を導いてくれることを信じて。
彼はもう過去を呪うことはなかった。
彼の心には、彼女が見守ってくれるという希望が宿っていたからだ。
