静かな村の中心には、古びた台が佇んでいた。
村人たちはその台を「恐れの台」と呼び、近づくことさえ避けていた。
その台には妙な噂が立っており、何かが起こる度に、村の空気が変わるといわれていた。
特に風が吹くと、その噂は一層強まった。
ある日のこと、村に新しく引っ越してきた青年、拓海は、その台と風の噂の真偽を確かめるため、仲間たちと台の元へと足を運んだ。
「こんなこと、ただの迷信だろ?」と笑いながら言った拓海に、仲間たちは多少の不安を抱きつつも賛同した。
彼らが台の前に立つと、突然、強い風が吹き荒れた。
風は周囲の葉を激しく揺らし、全ての音を飲み込んでいく。
拓海が思わず髪を押さえると、仲間の一人、亜美が声を上げた。
「見て!台の上に何かある!」野次馬根性でみんなが台の上を見ると、ぼんやりとした影が浮かび上がっていた。
それは何かが無造作に置かれたように見えたが、近づくにつれて、その影が一つの人影であることに気付く。
謎の女の姿がそこにあった。
彼女は白い衣をまとい、長い黒髪が風に揺れていた。
顔ははっきりと見えなかったが、目は鋭く、彼らをじっと見つめているようだった。
「おい、あれって、誰だ?」と真剣な表情で問うたのは健二だった。
拓海は何気に彼女の方を指差し、「ただの幻影だろ。風のせいだよ、きっと」と笑ったが、笑顔は次第に消えていった。
その時、女の口から「助けて…」というかすかな声が漏れた。
仲間たちはその声に耳を澄ました。
「君は誰?」と拓海が聞くと、女は白い指を台の角に向け、再び「助けて」と呟いた。
亜美は恐怖心を抱きつつも引き寄せられ、台の前に一歩近づいた。
「何があったの?どうしてここにいるの?」問いかけると、女はゆっくりと顔を上げた。
彼女の目は悲しみに満ち、まるで何かの呪縛に縛られているようだった。
「囚われている…解放されるためには…この場所を離れることができない…」と答えた。
台の周囲が不気味な静寂に包まれる中、風は一段と強くなり、彼女の髪と衣が激しく舞った。
拓海たちは恐れ、戸惑いながら立ち尽くすしかなかった。
台にはもう一つの噂があり、そこに立つことで自身がその女と同じ運命を辿ることになると言われていた。
困惑する仲間たちの視線が女に集中していたとき、拓海は心に決めた。
「俺がこの女を助ける!」と叫んだ。
仲間たちは驚いたが、拓海は台に足を踏み入れた。
同時に、女性は言葉を続けた。
「この場所には、約束がある。私を助けるためには、自らを捧げなければならない。」その言葉を聞き、拓海は戸惑ったが、彼女を放っておくことはできなかった。
拓海は心の中で囁く。
「なんとか、彼女を助けたい」という思いが、次第に強くなった。
その瞬間、風が吹き抜け、拓海は何かに取り込まれるような感覚に襲われた。
女は微笑み、その目が一層輝いて見えた。
「ありがとう、あなたが自らを捧げることで、私の鎖が解かれる。」
すると、風がさらに強まり、拓海は台の上に立つこともできず、体が宙に浮かんだ。
「返して…!」彼は叫んだが、女の声は彼の耳に届いた。
「約束を交わしたから、私もあなたを解き放つことができる。」そのまま風が静まり、拓海はまばたきをする間もなく、意識を失った。
次に気が付くと、拓海は村の外れに立っていた。
そして彼は周囲の冷たい空気の中で、背後からか細い声が聞こえるのを感じた。
「約束は果たされた…」その声は風に乗り、遠くへと消えていった。
彼は自分が何もかもを失ったような感覚の中で、村に戻っていくのだった。