町の外れにある小さな公園で、淳哉は毎日、放課後の時間を過ごしていた。
その公園には、古びたベンチや色あせた遊具が点在し、子供たちはもちろん大人たちもあまり近寄らない場所だった。
しかし、淳哉にとっては自分だけの特別な空間だった。
ある日のこと、淳哉が公園に行くと、いつもと違って不気味な風が吹いていた。
強い風が木々を揺らし、周囲にはどこからともなくささやくような声が聞こえた。
「帰れ…帰れ…」その声は、まるで誰かが彼に警告を発しているかのようだった。
しかし、興味心からそのまま公園に留まった。
淳哉はベンチに腰を下ろすと、先日見つけた不思議な石を持ち出した。
その石は、ひんやりとした冷たさを持ち、周囲の自然と何かしらの繋がりがあるような感覚を与えた。
淳哉はその石を通じて、何か特別な体験ができるのではないかと期待していた。
すると、再び強風が吹き荒れ始め、彼の周囲の景色が歪んでいくのを感じた。
頭の中に響く声はますます大きくなり、「戻れ!戻れ!」と叫んでいた。
しかし、淳哉はその場を離れることができなかった。
目の前には、薄暗い影が次第に現れ、彼を包み込むかのように迫り来た。
その瞬間、彼の目の前に現れたのは、かつてこの町で失踪したという女の子、真由美だった。
彼女は憔悴しきった顔をしており、風に背中を押されるように揺れていた。
淳哉は彼女が自分に何かを伝えようとしていると直感した。
「ここから帰れない…。」そう言った真由美の目は、生気を失い、淳哉を捉えて離さなかった。
淳哉は思わず彼女の言葉に耳を傾けた。
「私も、風に連れ去られた…」と続ける彼女の声は切々としており、彼の心に深く響いた。
しかし、淳哉はその言葉の意味を理解できなかった。
彼はただこの光景から逃げたかった。
しかし、身体は動かず、目の前の真由美に引き寄せられるように感じた。
彼女はさらに近づき、淳哉の手を取った。
「私と一緒に来よう…」その瞬間、彼は自分が何かに飲み込まれていくような恐怖に駆られた。
風がますます強くなり、視界が真っ暗になった。
そのとき、真由美の手を振りほどくように思い切り力を入れた。
信じられないほどの恐怖に私が包み込まれていくのを感じながらも、「帰れ!家に帰れ!」と心の中で叫んだ。
突然、淳哉は自宅の庭に立っていた。
彼は身体を震わせて、心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。
恐る恐る振り返ると、公園の景色が目の前に広がっているが、どこか異なる存在に包まれていた。
風はただの風ではなく、その中にあの真由美の影を感じた。
彼は心の中に残った真由美の言葉を思い出した。
「帰れ…帰れ…」それは、彼自身だけでなく、彼がこの町で目にすることのない他者たちに向けられた言葉であることに気づいた。
その夜、淳哉は公園のことをすっかり忘れることができず、窓を閉め切って眠りにつくことにした。
外から響く風の音を聞くたびに、彼はその風の中に真由美の影を感じてしまい、恐れていた。
彼はあの日以来、風の音に敏感になり、時折彼女の声が風に混じったように思えることがあった。
それ以来、淳哉は公園に行くことはなくなった。
しかし、あの風の声は今でも耳に残り、町のどこかで彼女がささやいている気がしてならなかった。
彼はその町で、何かを忘れ去ることに恐れを抱くようになったのである。