育の町には、一際目立つ古びた神社があった。
そこは、地域の人々にとって神聖な場所であり、訪れる者たちは皆、何らかの願いをこめて手を合わせる。
しかし、その神社には一つの恐ろしい噂があった。
それは「験」という名の若い男性に纏わる話だ。
彼は町の人たちから、「験の祈りを捧げれば、願いが叶う」という噂で名を馳せていた。
彼の存在を知っている者は、その噂をもとに急いで神社に訪れた。
験は、神社の境内で住んでいるとされ、それはあたかも神聖な役割を担っているかのようだった。
毎晩、彼は神社の灯りの下で人々が持参した願い事を、熱心に聞き入れ、祝福を与えていた。
ある晩、仲の良い友人たちと共に神社を訪れた子供たちは、験にお願いごとをすることにした。
彼らは無邪気に、家族の幸せや勉強の成功、果てはちょっとした小さな願いごとまでを次々と口にした。
験はそれをすべて受け止め、微笑みを浮かべながら頷いた。
だが、その夜以来、町に異変が起き始めた。
最初は小さな出来事だった。
願いごとが一つ叶った友人に、かすかに異様な影が付きまとった。
彼は誰かに見られているような恐怖に悩まされ、夜も眠れぬ日々を送った。
そして、徐々にそれは他の友人たちにも広がっていった。
彼らは「験が何かをつけてしまった」と口々に語ったが、験の存在に頼り切っていたため、誰も彼に真実を尋ねる勇気を持たなかった。
ある晩、数人の友人たちは神社で開かれた祭りに参加するため、再び験を訪れた。
彼らは心の中で恐怖を感じながらも、験に質問することはできなかった。
しかし、やがて祭りが進むにつれ、彼らの中で「験に隠された真実を知りたい」という気持ちが強くなっていった。
祭りの終わり近く、一人の少年が思い切って言った。
「験、僕たちの願いが叶う代わりに、何か得体の知らないものが付いてきてるんじゃないの？」その言葉に場の空気は凍りついた。
験は微笑んだまま、ゆっくりと答えた。
「時には、願いを叶えることには代償が必要だ。しかし、それを理解できる者は少ない。」
その瞬間、神社に冷たい風が吹いた。
周囲の景色が歪み、仲間たちは恐怖に駆られて神社を飛び出した。
しかし、その時、彼らの足元には不気味な影が現れ、仲間の一人がつまずいて転倒した。
影が彼を覆い、彼のまぶたが閉じた。
恐怖に満ちた顔で仲間たちが振り返ると、その影はすぐに消え、その少年も行方不明となってしまった。
次の日、町は彼の失踪の話で持ちきりになった。
しかし、友人たちの恐怖はこれだけでは終わらなかった。
彼らは自らが失った仲間のことを思い、今や自分たちもまた験がもたらした代償を背負って生きていることに気づいた。
月日が経過するにつれ、他の友人たちも次々と影に魅入られていき、影は次なる標的を狙っているかのようだった。
多人が失踪し、町の噂はますます広まった。
人々は神社へ近寄らなくなり、験の存在は忘れ去られていった。
ただ一人、残された者として生き残った少年は、今もまた神社の近くで過ごしている。
彼はその影の正体を知ることができなかった。
多くの友人を失い、頼っていた験も最早、記憶の中で揺らめいている。
彼は運命の悪戯に翻弄された者として、影との戦いの日々を送った。
そんな静寂の中、神社には今でも「験」の名が語り継がれている。
果たして、叶えた願いごとには、どれほどの影が潜んでいるのか。
それは誰にも知る由もないのだ。
