「願いの代償」

夜が静まり返ったある町の外れに、古びた「れ」があった。
そこはかつて栄えた神社であったが、今は荒れ果て、長い間忘れ去られていた。
周囲には、奇妙な噂が絶えなかった。
それは、神社の神霊が怒り、無理に信仰を捧げる者を呪うというものであった。
そして、そのことはいつしか「争」の伝説へと繋がっていった。

ある晩、大学生の浩二は友人の拓也とともに、その神社に肝試しに出かけることにした。
浩二は、神霊について冷やかし半分、信じたくない半分という心境だった。
拓也はさることながら、彼自身も都市伝説に興味があった。
彼らは神社に到着し、月明かりの下で薄暗くひび割れた石の鳥居をくぐった。
重い空気が漂い、二人は妙な緊張感を覚えた。

「見ろ、二つの願い事が書かれている石板だ。どっちがいいかな?」拓也が指差した。

その石板には、かつての信者たちの願い事が刻まれていた。
彼らはその中で、「願いをかなえた者」と「願いを果たせなかった者」が、それぞれの思いを訴えていた。
浩二は興味本位でそれを見つめていたが、少しずつ不安が心に浸透してきた。

「おい、これやめようぜ。なんか気味が悪い。」浩二が言うと、拓也はニヤッと笑った。

「大丈夫だって。ほら、ただの噂だろ?信じてないんだから、何も起きないよ。」

彼は甦る記憶を胸に、深呼吸をすると、石板の前で手を合わせた。
「神よ、私はこの夜を楽しむために、どうか私の願いを聞き入れてください。」

その瞬間、空気がひんやりとした。
浩二は背筋が凍る思いがしたが、拓也は彼を叱責するように、石板を撫でてから引き下がった。
「なんでもいいから願い事叶えてくれ、神よ!」

すると、突然空が派手に光り、二人の周囲に不思議な現象が現れた。
雲が濃くなり、雷鳴が響き渡る。
何かが目覚める声が彼らの耳に鳴り響いた。
神社の奥からは、激しい風とともに怒りの声が聞こえ、彼らの心をかき乱すようだった。

不運にも、その光景を目の当たりにした瞬間、拓也はふと気が狂ったように笑い出した。
「やっぱり神はいるんだ!俺たち叶えてもらってると思った、さあ、もっと大きな願い事をしよう!」

対照的に、浩二はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
だが足は動かない。
不気味な気配が周囲を取り囲むように迫ってきた。
彼が何とか振り向くと、拓也の背後には、巨大な影が立ち塞がっていた。
それは、神社の根源的な怒りが具現化した存在、すなわち「怨念」だった。

「私の名を呼んだ者。争いを生む者たち、願いを叶えることは必ずしも喜びではない。」怨念は拓也に向かって言い放った。

その時、拓也は恐れを知らずに笑い続けたが、浩二はその表情が次第に恐怖に変わっていくのを見た。
怨念の「ちらつく視線」に、浩二は心底の恐れを感じた。
そして、拓也はついに自分が欲したものの本当の姿を理解することになる。
「いや、違う、お願い、神様…助けてくれ!」

その声は無情にも、薄暗い神社に消えていった。
結局、拓也は、その神社で何か得体の知れない影に取り込まれ、二度と戻ることはなかった。

浩二は一人で逃げ回り、ようやく神社の外に出られたが、振り返るたびに迫り来る圧力に耐えながら、彼はその夜の出来事を誰にも語らずに生き続けることとなった。
怨念は彼の心の奥底に潜んでおり、彼は「争」うことの無意味さを深く理解するようになったのだった。

数年が経ち、日常へ戻った浩二だが、あの日の記憶はずっと鮮明で、それを思い出すたびに心の中に隠された怨念がざわめくのだった。

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