その町には、かつて「望」という小さな祠があった。
そこは、願い事を叶えた後に必ず何かを失うという恐ろしい伝説がある場所だった。
町の人々は誰もその祠には近づこうとはせず、訪れる者は皆、尋常ではない運命を辿った。
そういった噂を知っていたのに、高校生の学はその伝説に挑むことを決心した。
ある日、学は友人の圭太と共に、祠の前に立った。
「どうしてもあの祠で願い事をしたい」と学は言った。
圭太は「お前、まさか本気で願うつもりじゃないよな?」と心配そうに問いかける。
だが、学は自分の夢を実現させたい一心で、その場に踏み込んでいった。
「望の祠」に到着すると、そこには黒ずんだ石造りの祠が立っていた。
周囲は深い森に囲まれ、風が不気味に吹き抜ける。
学は心の中で堂々と願いを唱える。
「僕はプロのサッカー選手になりたい」彼の言葉は静寂の中で消えていった。
その瞬間、冷たい風が彼を包み込むように感じられた。
一週間後、学の願いは現実となった。
彼は地元のサッカーチームにスカウトされ、次第に注目される存在となった。
しかし、彼の周りには次第に異変が起き始めた。
友人たちが次々と体調を崩し、学校では思いもよらぬ事故が相次いだ。
学の心には不安が広がっていった。
「その願いを叶えた後に何かを失ったんじゃないか?」圭太は不安を抱えながら言ったが、学は「そんなことないよ。僕はこれからも成功する」と否定した。
しかし、その日以降、学は夢の中で何度も不気味な影を見続けることになる。
次第に、学は周囲との関係が疎遠になっていった。
成功と引き換えに、彼は何か大切なものを失っているような気がした。
そしてある晩、夢の中で彼はとうとうその影と向き合うことになる。
それは、かつての親友である涼の姿だった。
涼はサッカーをすることが大好きで、学がサッカー選手になる夢を応援してくれていた彼だった。
「お前の成功は、私の代償だったのか?」涼の声は悲しげに響いた。
学はそれを理解した瞬間、心が締め付けられるような苦しさを感じた。
「ごめん…」という言葉が喉に詰まり、生まれて初めて自分の選択が誰かの命を奪ってしまったことを認識した。
目が覚めても、その影は消えなかった。
学は夢の中で涼を失ったことで、彼がもう戻ってこないことを理解し、心の中に深い空洞が生まれた。
「僕の成功の代償は、君だったのに…」と無力感に苛まれ、彼は過去の写真を手に取ることもできなくなった。
日々のトレーニングは続いたが、望むものを手に入れた代わりに味わった苦悩は、時間が経っても薄れることはなかった。
サッカーの試合中も彼は常に涼の姿を想い、彼が側にいてくれたことを願い続けた。
ある夜、学は再び祠を訪れた。
祠の前に立つと、彼は心の中で叫びを上げた。
「もう一度願う。涼を返してほしい!」しかし、その願いすら届くことはなく、冷たい風が彼の周りを渦巻いた。
おそらく彼は今後も、自分の選択の後悔を抱えながら生きていくのだろう。
失われたものに対する深い後悔と共に。