薄暗い廊下を、一人の女子生徒が歩いていた。
彼女の名前は、佐藤美咲。
彼女は、放課後の静まり返った校舎で、友だちと話す約束を思い出しながら、急いで教室へ向かっていた。
しかし、その日の校舎はどこか異様な雰囲気が漂っていた。
日が沈むにつれ、廊下の明かりは一層冷たく、影が妖しく動いているように感じた。
美咲が教室に入ると、友人たちはすでに席についておしゃべりをしていた。
彼女は和やかな雰囲気に安心し、話に加わった。
だが、その夜の特異な雰囲気は、どこか不安をかきたてるものがあった。
「ねえ、知ってる？この学校、昔、女子生徒が行方不明になった話。」友人の一人、鈴木美穂が言った。
美咲は思わず耳を傾けた。
彼女は興味本位ではあったが、どこか心の奥でその話を避けたい気持ちもあった。
「その生徒の足音が、今でも校舎のどこかで聞こえるって噂があるの。」美穂は微笑みながら言ったが、その表情には不安が見え隠れしていた。
その話が終わる頃、ふと廊下から「トントン」という音が響いてきた。
美咲は一瞬、驚きに目を見開いた。
「今の、何の音？」彼女は友だちに尋ねた。
「誰もいないんじゃないの？気のせいじゃない？」美穂が答えたが、美咲はその言葉を信じられなかった。
音は再び鳴った。
「トントン、トントン。」まるで、誰かが廊下を歩く足音のようだった。
不安を感じた美咲は、友だちに「ちょっと見てくるよ」と言い、立ち上がった。
教室を出て廊下に出ると、その音はさらに大きくなり、どこからか近づいてくるようだった。
美咲は心臓が高鳴るのを感じながら、足を進めた。
音は廊下の奥から聞こえてきた。
薄暗いところを慎重に進み、彼女は自分自身に「大丈夫、きっと誰かがいるんだ」と暗示をかけた。
しかし、暗闇は次第に怖さに変わっていく。
その時、再び「トントン」と響く音が背後から近づくのを感じた。
驚いて振り返ると、誰もいない。
ただ、薄暗い校舎に自分だけがいるという恐怖が襲ってきた。
彼女は足がすくみ、動けなくなった。
一体、誰がこの音を立てているのか、ますます不安が増していく。
「お願い、誰かいるなら返事をして…」美咲は声を震わせたが、返事はなかった。
すると、再び音が聞こえた。
「トントン」今度は足音のリズムが不規則で、何かが近づいてくる感触があった。
恐怖に駆られた美咲は、何も考えずにその場を離れようとした。
その瞬間、足元から冷たい風が吹き抜け、彼女は床に転倒した。
転んだ拍子に目に入ったのは、黒い影だけだった。
「私の足、私の足音が…」その声は、かすれた子供のようだった。
彼女は思わず叫び声を上げた。
校舎の案内板にかつての行方不明者の顔が貼られていた。
その生徒の足元に、足音が共鳴しているように見えた。
「もうお家に帰りたい…」心の底から恐怖が湧き上がり、美咲は必死に逃げ出そうとした。
廊下を駆け抜け、教室に戻ると、友だちが心配そうに待っていた。
「美咲、どうしたの！顔色が悪いよ！」美穂が駆け寄ると、美咲は思わず肩を震わせた。
「トントンって音が…後ろに何かがいたの…」
その後、学校では異変が続いた。
それ以来、校舎内では美咲の足音と別の足音が混じり合って響くのを聞くことが多かったという。
この噂は広まり、校の伝説の一つとなった。
美咲はそれ以来、その出来事を胸の奥にしまっておくことにしたが、時々思い出すことがあった。
彼女は目を閉じ、あの冷たい声をもう一度聞くことになるかもしれないと感じていた。
今もなお、足音は校舎のうちで響き続けている。
