「響く愛の囁き」

作は、古い屋敷に住む大学生であった。
彼の部屋は屋の最上階にあり、その窓からは美しい街並みが見下ろせた。
夜になると、外の景色は淡い灯りに包まれ、作は心地よい安らぎを感じていた。
しかし、彼の心の奥にはいつも、かすかな不安があった。
かつてこの家で起こった悲劇、そして彼の愛する人への想いが、その不安を強くしているのだった。

作には、幼馴染の美咲がいた。
二人は小さい頃からずっと一緒に過ごし、いつしか作は美咲に恋をするようになった。
しかし、美咲は大学進学を機に、東京に引っ越し、遠く離れた存在となった。
二人の関係は徐々に疎遠になり、その思いは彼の心に重くのしかかっていた。

ある晩、作は自室で勉強をしていると、突然、屋の奥から不気味な音が聞こえてきた。
カラカラと鳴る何かの音。
それは夜の静寂を切り裂くように響き、彼の心臓がドキリと跳ねた。
この音は何だろうと不安を感じながらも、無視して勉強を続けることにした。
しかし、その音は何度も聞こえてきて、彼の集中力を奪い去っていく。
気がつくと、音は次第に大きくなり、まるで誰かが叫んでいるかのように感じられた。

思わず作は立ち上がり、音のする方へ向かうことにした。
屋の奥へ進むにつれ、鳴る音は徐々に彼の心の奥にある不安を反映するかのように、荒々しくなっていった。
その時、彼はある部屋の前に立っていた。
ここは昔、美咲が来た時に一緒に遊んだ部屋だ。
ドアはわずかに開いており、暗闇の向こう側から冷たい風が吹き込んできて、思わず体が震えた。

意を決してドアを押し開けると、そこには誰もいなかった。
しかし、彼の目の前には美咲の書いたと思われる古ぼけた詩が壁に貼られていた。
その詩は、愛と別れ、そして再生をテーマにしたもので、彼が知っている美咲の作品だった。

その瞬間、作の心に強烈な想いが流れ込み、彼は思わず涙を流した。
彼は彼女を思い出し、伝えられなかった想いを口にした。
「美咲、僕は君を忘れたことなんてないよ。」声に出すと、どこからともなく優しい響きが返ってきた。
「作、私もよ。」

驚いて振り向くと、そこには美咲の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
彼女の顔は柔らかく、微笑んでいた。
しかし、その姿は次第にかすんでいき、まるで消えていくようだった。
「愛しているのに、どうしてもっと一緒にいられなかったのか、後悔ばかりだよ。」作は心の底から叫んだ。

「私も、でも私たちは世の中の流れに逆らえない。ただ、ずっと私の心の中にいてほしいの。」美咲はそう言って、彼の手を優しく撫でた。
彼の心の中で、彼女の愛がまるで温かな光のように広がっていく。
そして彼女は静かに姿を消していった。

作は途方に暮れながらも、美咲の存在を感じていた。
それは形のない愛ではあったが、彼の心には間違いなく存在するものだった。
彼は思い出に囲まれたその屋敷で、次第に彼女の想いと共に生きていくことを決意した。
そして夜が静まり返る中、新たな一歩を踏み出すのだった。
以前のように、彼女と共にいる気持ちを胸に抱いて。

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