「響く影の真実」

一度も訪れたことのない小さな村、庄野村に引っ越してきた佐藤修は、新しい生活を楽しみにしていた。
この村は静かで、田んぼや山々に囲まれた平和な場所だったが、何かしらの異様な雰囲気が漂っていた。
村人たちは口を揃えて、「夜になると、近づいてはいけない」と警告していたが、修は気に留めなかった。

ある晩、修は友人からの誘いで飲み会を開いていた。
その帰り道、酔っ払った勢いで山道を歩いていると、ふと出発点に戻れる道を失ってしまったことに気付いた。
不安を感じながらも、月明かりを頼りに進むことにした。

しばらく歩くうちに、誰もいないはずの村の奥から声が聞こえてきた。
「修、こっちだよ」と、柔らかい女性の声が響いた。
しかし、村には知り合いはいない。
これはただの酔っぱらった幻聴だろうと思いつつも、声に引き寄せられるように進むと、見覚えのない古い神社が現れた。

神社の中は不気味に静まり返っていた。
たくさんの石灯篭が立ち並ぶ中、薄暗い境内には何かが潜んでいるような気配を感じた。
そして、再びその声が響いた。
「早く、こちらにおいで」と。
修は恐怖よりも好奇心が勝り、神社の中に入ることにした。

神社の中は冷たい空気に包まれていた。
修は中央の大きな木に向かって歩き出すと、次第にその声が明確になった。
「真実を知りたいのか?」と、声は問いかけてきた。
好奇心に駆られた修はうなずいた。
「では、教えてあげよう」と言う声に導かれ、神社の左側にある小さな祠に向かって足を運んだ。

祠の扉を開けると、そこには無数の小さな人形が並んでいた。
その顔は、どれも生きているかのように恨めしそうだった。
修は思わず声を上げた。
「これは……どういうことだ?」と。
すると人形たちが一斉に彼を見つめ、口を開いた。
「あなたをさ迷わせるために私たちのにがみ(逃れよう)としてるんだ」と。
彼はその場から逃げたかったが、動けなかった。

急に次の瞬間、目の前が暗くなり、彼は何かに取り込まれる感覚を覚えた。
どこかにいる自分の肖像が映し出され、彼の過去の出来事が次々に流れていく。
「本当の真実を知るって、こういうことなのか」と思った。
恐れや辛さが胸に押し寄せてくる。
生きてきた中で、彼の心の中に隠していた様々な感情が一度に呼び覚まされた。

その時、すべての景色が変わり、彼の目の前に過去の自分が現れた。
影のように不気味な自分が語りかけてくる。
「お前は何を失ったのか、考えたことがあるか?」修の心に響いた。
彼は答えられなかった。
続けて影は言った。
「本当の真、というのは逃げ隠れしている心の底にあるのだ。」

もはや恐怖を感じる余裕もなく、修は自分の失われたものについて考えた。
失っていたのは、長らく封印していた感情だった。
自分を誤魔化しながら生きていたことが、影の存在をつくっていたのだと気づいた。

「もう逃げない。受け入れる」と答えると、その瞬間、影は静かに消えていった。
神社は元の穏やかな姿に戻り、修の心も静けさを取り戻した。
彼は、小さな村に戻ったとき、村人たちが彼を呼んで待っているのに気づいた。
もうあの夜のことは、彼の胸の奥深くに沈められた真実として、心の一部になったのだった。

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