小さな町の片隅にある古いアパート「れ」。
ここには、多くの人々が住んでいたが、住人たちは次第に減っていった。
このアパートには、誰もが恐れるひとつの噂が存在した。
それは、夜になると響く「の」という音だという。
彼女の名前は美咲。
22歳で、都会からこのアパートに引っ越してきたばかりだった。
静かな環境を求めていた美咲は、最初こそこのアパートを気に入っていた。
しかし、入居してすぐ、「れ」の中の特定の部屋からいつも「の」と聞こえてくる音に気付いた。
最初は小さな音だったので、気のせいだと思っていたが、夜が深まるにつれて、その音はまるで誰かが呼んでいるように感じられた。
ある晩、美咲は友人の玲奈を呼び、一緒に食事をすることにした。
食事を終え、話し込んでいると、ふと「の」という音が耳に入り込んできた。
美咲は一瞬凍りつき、玲奈の顔を伺った。
彼女はすでにその音に気づいていて、少し不安そうな表情を浮かべていた。
「あの音、聞こえる？」と美咲が尋ねると、玲奈は小さく頷いた。
「ここに住む前から、私はこのアパートの噂を聞いていたの。住人が次々と引越していく理由は、あの音が原因らしいよ」と玲奈が言った。
その言葉を聞いて、美咲はますます不安になった。
音の正体が何なのか、気になって仕方がなかった。
その翌日、美咲は思い切って「あの音の秘密を探ろう」と決意した。
彼女は「れ」の音が響く部屋の前に立ち、ドアをノックした。
しかし、返事はなかった。
しばらく待っていると、突然、廊下の奥から誰かの気配を感じた。
振り返ると、通り過ぎる影が見えたが、それは一瞬のことだった。
すぐに振り返ると、影はもう消えていた。
彼女はそのまま部屋を後にした。
数日後、美咲は再び夜中に「あの音」を聴いた。
強い好奇心が彼女を駆り立て、この音の正体を究明することにした。
夜中、誰もいないアパートの廊下を進み、音のする部屋のドアの前に立った。
心臓の鼓動が高鳴り、その音が響くたびに、彼女は思わず息を飲んでいた。
意を決してドアを開けると、室内は薄暗かった。
音は少し大きくなり、まるで誰かが彼女に語りかけているかのようだった。
美咲は思わず声を発した。
「誰かいますか？」
すると、その瞬間、部屋が一瞬真っ白に光った。
そして、不意に光が消えると、視界の中に一人の少女が現れた。
少女はぼんやりとした表情で、美咲を見つめていた。
彼女は年齢こそ美咲と同じぐらいだが、どこか儚げで、不安げな瞳を持っていた。
「私の名前は小雪。ここに住んでいたけれど、事件があって…」少女は言葉を続けようとしたが、その瞬間、音がさらに大きくなり、美咲は耳を塞ぎたくなった。
小雪の話は続かなかった。
彼女は何かを訴えようとしているようだが、その声は音にかき消された。
美咲は恐怖を感じ、瞬時に部屋から飛び出した。
外に出た瞬間、静けさが戻り、音も消えた。
心臓がどくどくと鳴っていたが、彼女は深呼吸して安定を取り戻そうとした。
それでも、あの少女の瞳と声が心に引っかかっている。
彼女は自分の身に何が起こったのかを知るため、またそのアパートに戻ることを決心した。
いつか、あの音の真実を見つけ出さなければならないと、美咲は思った。
しかし、何度も調べても、答えは見つからなかった。
時が経つにつれ、美咲の心には「代」の言葉が浮かぶ。
「彼女を助けないと、私はこの音に囚われてしまうかもしれない。」その思いが彼女を不安にさせ、逃げたくなる気持ちと戦い続けた。
美咲は決して気を抜かず、あの音と少女の謎を解くために、今日も静かな夜に耳を澄ますのだった。
音と影が再び交わる時、彼女は答えを見つけることができるのだろうか。
