彼女の名前は修子。
東京の片隅にある小さなアパート、一人暮らしを始めたばかりの彼女は、まるで新しい生活をスタートさせるための清々しい気持ちを抱いていた。
そんなある日、彼女は引っ越しの際に手に入れた不思議な小箱を見つける。
外見は普通だが、どこか落ち着かない気配を感じる。
作りは古く、少しずっしりとした重みを持っていた。
その日は特に何も考えず、ただぼんやりと小箱を机の上に置いて眠りについた。
だが、夜中に大きな音で目を覚ます。
何かが自分の部屋で動いている気配を感じ、恐怖が修子を襲った。
思わず目を閉じるが、心臓の鼓動はどんどん大きくなっていく。
翌朝、明るい光が差し込む中、修子は眠りから覚める。
昨夜のことが夢だったのか現実だったのか分からず、無理やり振り払うように日常に戻った。
しかし、その日以降、彼女は毎晩同じように何かに悩まされる。
小箱からはかすかな声が聞こえるような気がするのだ。
最初は微かな囁きのようだったが、徐々に声は明確になり、彼女の名を呼ぶかのように感じられる。
夜になると、その声が自分の名前を呼ぶのを直接耳にし、徐々に彼女はその正体を探ることに決めた。
ある晩、修子はその小箱を再び取り出し、正面に置いて耳を傾ける。
その瞬間、彼女の目の前で小箱が微かに振動し始め、声はより一層鮮明になった。
「助けて、ここから出して…」
驚いた彼女は、強い困惑と恐怖で混乱するが、同時にその声にはどこか助けを求める切実な響きもあった。
声がどこから来るのか、その源を知りたい思いが彼女を突き動かした。
次の晩、好奇心に勝てず修子は小箱の中身を調べることにした。
慎重に蓋を開くと、中は空っぽだった。
しかし、そこからはひどく冷たい風が吹き、まるで誰かがそこにいるかのような感覚がした。
一瞬、彼女の背後から何か重い気配を感じ、振り向くと、薄暗い空間の中に微かな影が見えた。
彼女は恐怖で硬直し、思わず目を閉じる。
数秒後、勇気を振り絞って目を開けると、影は消えていた。
しかし、それ以来、修子の周りは異常な出来事が続いた。
夜になると、声が聞こえるだけでなく、物が勝手に動くこともあった。
彼女は次第に心の平静を失い、朝になるといつも疲れ切っていた。
ある晩、ついに彼女は決意した。
声の持ち主が何を求めているのかを知るために、もう一度小箱を開けてみることにした。
恐る恐るその蓋を開けると、そこにはひとつの小さな金属製の鍵が入っていた。
鍵を手にした瞬間、再びあの声が響く。
「その鍵で私を解放して…」
修子はその言葉に導かれるように、周囲の物を調べ始める。
物置の奥に、小さな引き戸が隠れているのを見つけた。
恐る恐る近づき、鍵を差し込む。
歯車がきしむ音とともに、引き戸がゆっくりと開いていく。
奥には真っ暗な空間が広がっていた。
その中からは人の温もりを感じ、声が強くなった。
「助けて…私を解放して…」気が付きゃ、修子はその中に何かを見つける。
だがその瞬間、彼女は思わず引き戸を閉じてしまい、恐怖に押しつぶされそうになる。
その声は徐々に消えていき、静寂が部屋を包んだ。
彼女はそれ以来、その部屋から何も再び持ち出すことなく、日常生活に戻ることができたけれど、心のどこかに彼女の知らないままに封じられたものがいたことを感じ続けるのだった。
最後に後ろを振り返るが、もう声は聞こえない。
ただ静かな部屋の中で、彼女はあの小箱を再び開けることはなかった。