「響き渡る声」

舞台は、静かな田舎町にある古い民宿。
外からは古びて見えるが、内部は意外にもきれいに保たれている。
周囲は山に囲まれ、昼間は緑が生い茂り、夜には星空が広がる美しい場所。
しかし、その民宿には人知れず恐ろしい噂があった。

主人公は、大学生の佐藤直樹。
彼は友人たちと心霊スポット巡りをするため、この民宿に宿泊することを決めた。
好奇心旺盛な直樹は、友人の涼子と健太と共に、夜の肝試しを計画していた。
彼らは、「この民宿では、かつて宿泊客が姿を消したという伝説がある」という噂を聞いていたが、それを気にせず楽しい夜を過ごすつもりだった。

その夜、彼らは食事を終え、談笑しながら夜の外へ繰り出した。
近くの森に向かう途中、直樹はふと、古い石碑を見つけた。
石碑には、何やら文字が刻まれているが、薄暗い中ではよく見えない。
興味を持った直樹は、友人に呼びかけて近づいた。

「この文字、なんて書いてあるんだろう?」

涼子がスマートフォンのライトを照らし、その文字を照らすと、古いひらがなで「この地に生きる者、亡き者の声に耳を傾けよ」と読めた。
直樹はその意味を考え、不気味さを感じながらもまだ楽しさが勝っていた。

彼らは石碑を後にし、さらに森の奥に入っていく。
しかし、段々と周囲は静まり返り、鳥の声すら聞こえなくなった。
何かが彼らを見ているような気配に、健太が不安を口にした。

「戻らない?なんか変な感じがする。」

その言葉に、涼子も頷いたが、直樹は興味が尽きず、奥へと進んでいく。
「大丈夫だ、そんなことで恐れていては肝試しにならないだろ?」と彼は明るく返した。
しかし、森に響くはずの音は、ますます静まり、ひんやりとした空気が彼らを包んだ。

その時、直樹がふと振り返ると、真っ白な着物を身にまとった女性が立っていた。
彼女の顔は影に隠れ、表情は読み取れない。
心臓がドキリとした直樹は、友人たちを呼び寄せたが、彼らが振り向いた時には、そこに彼女の姿はなかった。

「見た?今、誰かがいたよ!」直樹が言うと、涼子と健太の顔が青ざめた。
「もちろん見てない。あれはただの幻影だ、きっと」と健太が言うが彼の声は震えていた。

その後、彼らは再び宿に戻り、パニックが起こった。
何か普段と違う感覚が漂っていた。
直樹はその晩、夢の中で先ほどの女性の姿を見た。
彼女は何かを訴えかけようとしているが、言葉はなく、ただ目を瞑り、涙を流していた。

次の日、直樹はどこかへ行きたくなり、友人たちに相談した。
「もう一度あの森に行こう。何かを確かめたい。」直樹の熱意に押された涼子と健太は渋々同意した。
森に再び足を踏み入れると、今度は足元から轟音が聞こえ、彼らを包む異様な空気に戸惑っていた。

その時、再び女性の幻影が目の前に現れた。
彼女はかすかな声で「私を届けて…」と呟いた。
全身に寒気が走り、生きた心地がしなかった直樹たちは、ほとんど無意識に逃げ出した。
背後では、女性の叫びが耳に残り、明らかに彼女は苦しんでいる様子だった。

無事に宿に戻った彼らだが、その晩、再び女性の夢を見た直樹は、「届けてほしい」という彼女の声に強烈な印象を受けた。
夢の中の彼女は、沈み込むように消えていった。

最終的に、彼らは民宿を後にすることにした。
しかし、直樹はあの女性が何を求めていたのか理解できないままだった。
心の奥に残った胸のざわつきと、喪失感は解消されることなく、彼はこの場所から一歩を踏み出した。

それから数年後、直樹は再びその地を訪れた。
石碑の前に立った彼は、当時の記憶を思い出し、ふと願った。
「あなたを覚えている」と。
すると、背後で優しい風が吹き渡り、遠くから「ありがとう」という声が聞こえた気がした。
その瞬間、心の中で何かが解放されたように感じた。

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