「音の誘い」

狛は大学生で、夢見がちな性格の持ち主だった。
彼はいつも友人たちと一緒に過ごすことが多かったが、ある夏の夜、彼は一人で行くことに決めた。
目的地は、北海道の帯にある古びた公園。
その公園は、地元の人々から不気味な話が語り継がれていた。
「ここで夜中に不気味な音を聞いた者は、何かに導かれ、決して戻れなくなる」と。

その噂を聞いても、狛はその公園に強い興味を持っていた。
怖いもの見たさで、月明かりの下、薄暗い公園へ足を運んだ。
公園に着くと、周囲は静まり返り、月の光だけが彼を照らしていた。
静けさの中に、どこか異様な気配を感じたが、狛は意気揚々として奥へと進んでいった。

公園の中心に到着すると、彼はその場に立ち尽くした。
何もないはずのその場所に、耳を澄ませると、微かな音が聞こえてきた。
それは、不規則に響く「カラン、カラン」という音だった。
思わず身をすくめる狛。
その音はどこからともなく聞こえ、まるで誰かが彼を呼んでいるようだった。

気になる音の正体を探ろうと、彼は周囲を見渡した。
暗闇の中に、おかしな光景が広がっていた。
朽ちたベンチと木々、そして一枚の古びた看板が、闇に埋もれたように佇んでいた。
狛はその場から動けずにいたが、「行かないといけない。音の正体を見たい」と自分に言い聞かせ、音の方向へ行く決意をした。

音が導くままに歩みを進める狛。
音は徐々に大きくなり、彼の心臓も高鳴った。
途中、彼は「これが本当に正体不明の音なのか」と、恐怖と興味が交錯する不安を感じた。
視界が暗くなっていく中、彼はその音に魅了されていた。

「カラン、カラン――」音が彼の心に響くのと共に、視界の先に人影が見えた。
細長い影が動いているように見え、狛の胸は高鳴った。
近づいていくうちに、その影が女性であることに気づく。
彼女は黒いドレスを着ていて、長い髪が舞うように揺れていた。

「助けて」と彼女が呟くのが聞こえた。
狛はその声に引き寄せられるように、彼女の近くに行くと、彼女は涙を流していた。
その涙が月光に反射し、彼女の悲しみを際立たせていた。

「ここから出られない」と彼女は繰り返した。
「私をここから連れて行って。音が鳴るから、私を捕まえないで」と。
狛は彼女のもとに駆け寄り、手を差し伸べたが、突然、周囲の音が耳をつんざくように大きくなった。
その音は、彼女の悲鳴と共に響いていた。

驚いて振り返ると、周囲が急に暗くなり、冷たい風が彼の周りを包み込んだ。
彼は恐怖に震え、彼女から手を引いて逃げ出そうとした。
しかし、振り返ると彼女の姿は消えていた。
代わりに、立ち尽くす狛の耳に、彼女の声と同じ音が耳に残っていた。
「カラン、カラン」。
その音は、まるで彼が今までの人生で聞いたことのないような、不気味さを帯びていた。

そのまま逃げ続けた狛は、とうとう公園の外にたどり着いた。
しかし、その後も耳の奥に「カラン、カラン」と響き続け、心をざわつかせる。
公園を出たにもかかわらず、彼はその音から解放されることはなかった。
周囲の静けさの中、その音だけが彼を追いかけ、決して離れることがなかった。

狛はそれ以降、帯の公園のことを考えないようにした。
しかし彼の耳の中には、今でもその音が響き続けていた。
それは彼の心の奥、密かに残った恐怖のようなものであり、彼は決して忘れることができなかった。
あの音が、永遠に響き続ける限り、彼の心にも影を落とし続けるのだ。

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