「音の落ちた教室」

止まった時間、静寂な街の一角に佇む廃墟と化した古びた学校。
その名も「止小学校」。
かつては子どもたちの笑い声で賑わっていたが、今は訪れる者もなく、ただ耳に残る音が響く時間に身を委ねる場所となっていた。

主人公の浩二は、友人たちと共に肝試しを計画した。
噂によれば、止小学校には「音が落ちる」という不気味な現象があった。
生徒たちが校舎内で遊んでいると、時折、周囲の音が突如として消えたり、逆に響き渡ったりすることがあったらしい。
浩二は恐怖心を克服し、世間の噂を実証するためにそこに足を運んだ。

校門をくぐり、暗い校舎の中に入ると、彼の心臓は高鳴った。
彼の後ろには、友人の理恵と翔太が続いている。
彼らの間に漂う不安の空気が、浩二の鼓動をさらに早めた。
「大丈夫だ、ただの噂さ。」浩二は自分に言い聞かせるように言った。
しかし、彼の目には、心霊スポットを巡る興奮と恐れが入り混じっていた。

校舎内に入った瞬間、周囲の音が途端に消えた。
理恵がつぶやいた。
「なんで急にこんなに静かになるの…?」浩二は無言で頷き、自分たちの声すらも消えた静寂が恐怖を呼び覚ます。
二人を勇気づけるために話しかけようとするが、言葉が喉に詰まった。

翔太がふと、前方にある教室の扉を指さした。
「あそこに行ってみよう。」その声は、まるで耳元で囁かれたかのように響き、浩二は何かに引き寄せられるようにその扉に近づいた。
理恵も二人の後ろに続いた。

扉を押し開けると、教室内は真っ暗で、埃が積もった机や椅子が不気味に配置されていた。
不安を抱えながら、浩二は懐中電灯を照らし、明かりをもって内部を探る。
すると、壁の隅でゴソゴソと音がした。
まるで誰かがいるかのように。
浩二はその音に引かれ、近づく決心を固める。

「待って、行かないほうがいいよ!」理恵が叫んだが、浩二の足は動いていた。
音を確かめるために、彼は一歩一歩進んでいく。
だが、その瞬間、急に周囲の音が落ちた。
まるで時間が止まったかのように、友人たちの声も、懐中電灯の音も、全てが消えた。

浩二はそのまま進み続けたが、彼の心の中に一つの恐怖が芽生えた。
「失った音が戻らない」と。
いつか自分がここに独りぼっちになるのではないかという不安。
それは彼の足を鈍らせ、心を重くさせた。

そして、彼は教室の隅に一人の少女が座っているのを見つけた。
長い髪を垂らし、虚ろな目で前を見つめるその少女は、浩二が近づいても動かない。
彼は恐れつつも引き寄せられ、さらに近づこうとした。
その瞬間、浩二の背後から「早く出よう!」という理恵の声が響いた。

その瞬間、浩二は我に返り、恐怖の念が彼を突き刺した。
振り返ると、理恵と翔太は恐怖に震えて、急いで教室の外に逃げ出していた。
「待って!」浩二が叫んだが、彼らの姿はもうすでに遠くへ消えていき、彼は取り残されてしまった。

浩二は、逃げようとしたが、体が動かない。
周囲の音がまた途切れ、彼はその場に立ち尽くした。
「音が落ちる」という噂の意味が、だんだんと理解できるようになっていた。
彼は一人、永遠にこの教室に囚われたまま、音が奪われ、何もない空間に埋もれてしまうのではないかと。

そのとき、少女が彼に向かって微笑みかけた。
その笑顔は、かつての子どもたちの姿を胸につけていた。
彼女は手を伸ばし、浩二の心を掴む。
「あなたも、失ってしまうの?」彼女の声が耳の中で反響する。

浩二は逃げ出すことを選ぶことができず、ただ彼女の視線に捕らわれ続けた。
彼の心の奥深くで、「音が落ちる」という言葉が反響し、その後の彼の人生に影を落とすことになるのだろう。
彼は、闇の中で音を失ってしまった少年として、永遠に止まったまま、音の無い空間に留まる運命に身を委ねることになった。

タイトルとURLをコピーしました