帯の町には、古くから語り継がれている怪談があった。
この町に住む人々の間では、夜になると聞こえてくる不思議な音についての噂が立っていた。
「サ」という名の小さな神社がその中心にあり、その周囲の静寂が逆にその音を際立たせるのだ。
ある晩、新しい住民として町に引っ越してきた佐藤は、町の噂を聞いて興味を持った。
友人たちから「夜中にサの近くに行くと、不可解な音が聞こえるらしい」「あの音は神様の声だ」と言われ、興味をそそられてしまった。
勇気を持って、その神社を訪れた瞬間、彼の運命は大きく変わることになるとは、知る由もなかった。
夜の帳が下りるころ、佐藤は神社に到着した。
周囲は何もない静寂に包まれ、ただ夜風の音が耳に心地よく響く。
しかし、その静けさが徐々に恐怖へと変わっていく。
月明かりに照らされた神社の境内は、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。
その瞬間、彼の耳に不思議な音が響き渡った。
「サ…サ…」という囁くような声。
それは、まるで何かに呼びかけられているようだった。
佐藤は好奇心からその声の正体を確かめようと、声のする方向へと進んだ。
しかし、しばらく歩くうちに、その音は徐々に遠ざかっていく。
「おかしいな…」と彼は不安を抱えながらも、先へと進む。
しばらくすると、音が再び近づいてきた。
「サ…サ…」今度ははっきりとした声になった。
しかし、その声の背景には、不気味な呻き声や人の足音が混じっているように感じられた。
心臓が高鳴る中、彼はさらに奥へ進んだ。
その瞬間、強い風が吹き抜け、彼の目の前に何かが現れた。
薄暗がりの中から現れたのは、一人の女性の霊だった。
彼女は悲しげな表情を浮かべ、まるで助けを求めるように手を差し伸べていた。
佐藤は驚き、恐怖で身動きが取れなかった。
彼女の声が再び耳に届く。
「サ…サ…私を…助けて…」
その瞬間、佐藤は彼女の存在がこの町に何か重要な意味を持つことを理解した。
彼女の悲しみを感じ取った佐藤は、何かできることはないかと考えた。
その時、思い出したのは、友人たちが口にしていた「神様の声」という言葉だった。
彼は周囲を見渡し、周囲の神社に向かって呼びかけた。
「あなたの声を届けてください！」
すると、彼の周りが急に静まり返り、女性の霊が不思議な表情に変わった。
彼女の瞳が輝き、先ほどとは異なる雰囲気を纏っていく。
彼女はゆっくりと頷き、そして消え去った。
その瞬間、サの神社の周囲には、優しい音楽が流れ出し、過去の悲しみや苦しみが徐々に解き放たれていくように感じられた。
佐藤は困惑したものの、どこか安心感を覚えていた。
あの音の正体が彼女の願いであったこと、彼女の苦しみが解放されていくこと、すべてを直感的に理解したのだ。
町の人々は、その後、神社の近くで聞こえる不思議な音を「新しい神様の声だ」として受け入れるようになり、夜になるとその音が町中に響き渡るようになった。
数日後、町を訪れた佐藤は、初めて感じた安心感に包まれていた。
しかし、彼には他の人々が感じることのない、微かに残る「サ…」という囁きが耳に残っていた。
あの女性の霊の存在は、彼の心の奥に深く刻まれていたのだ。
それが意味するものは未だにわからなかったが、彼はこの町に新たに根付いた「音」の重要性を、心の底から理解していた。
