小さな町にある古びた小学校が舞台である。
この学校は50年以上も前に建てられ、多くの子どもたちの笑い声を聞きながらも、今では誰も近づかない廃校となっていた。
町の人々は「夜にあの学校に近づいてはいけない」と口々に言い伝え、特に独りであろうものには危険が迫るという噂が広まっていた。
ある晩、私は何かの雑誌で読んだ『びっくりする夜の物語』を思い出した。
好奇心に駆られ、ひとりでその学校に足を運ぶことにした。
すると、薄暗い校舎の影が不気味に揺れ、まるで私を呼んでいるかのように感じられた。
学校の中に入ると、長い廊下が広がっていた。
埃にまみれた床、古びた教室、剥がれた壁紙…全てが時間の経過を物語っていた。
何かに引き寄せられるように、私は一番奥の教室に向かった。
ドアがギシギシと音を立てて開くと、真っ暗な教室には黒板と机がいくつも並んでいた。
そこには何もないはずなのに、ふと視線が動く気配を感じた。
目を凝らすと、黒板がかすかに光を放っているように見えた。
近づいてみると、黒板には「遊ぼうか」と書かれていた。
しかし、文字はどんどん増えていき、蝶文字のように絡み合い、最終的には「おいで、遊ぼうよ」という言葉が現れた。
その瞬間、教室の空気が凍りつくような感覚に襲われ、私は全身が震えた。
独りでいることへの恐怖が私を包み込む。
「引き返そう」と思ったが、足が動かず、まるで何かに取り憑かれたかのようにその場に留まってしまった。
すると、教室の奥から「あなたは一人じゃない」と声が聞こえてきた。
それは微かで、まるで風に乗ってきたかのような声だったが、確かに私の耳に響いた。
振り返ると、窓から月明かりが差し込み、そこには薄ぼんやりとした影が立っていた。
その影は、まるで昔の生徒たちが授業を受けているような姿だった。
彼らは無表情で、私を見つめていた。
ある意味で無邪気な雰囲気を保ちながらも、そのまなざしには冷たいものが宿っていた。
「独りじゃない」と声をかけた影たちが一斉に私の方に向かい、手を差し伸べてきた。
私はその手に触れようとした瞬間、急に暗闇が広がり、周囲の音が消えた。
手を差し伸べる影も、いつの間にか消え去ってしまい、私だけが教室に残っていた。
その時、私は急に思い出した。
昔、ここで亡くなった子どもたちの話を誰かに聞いたことがあった。
その子たちの霊が、この学校に留まっているという噂だった。
彼らは自分たちの遊び相手を欲しがっているのかもしれない。
私はその教室を後にした。
振り返ると、黒板の上に「また来てね」と書かれていた。
急いで廊下を走り抜け、出口に辿り着いたとき、背後から小さな笑い声が響いた。
その声は、まるで過去に遊んでいた子どもたちのもののようだった。
それ以来、私はその学校には二度と近づかなかった。
しかし、時折、夢の中で彼らの声が聞こえてくることがある。
独りでいることの恐怖は、どこか不気味な魅力があるのかもしれないと、私は思う。
あなたたちも、小さな町のその学校に行くことは決してないように、心から願う。