原っぱの静けさが心地よい午後、23歳の佐藤健一は一人、気ままな散歩を楽しんでいた。
彼は都会の喧騒を離れ、のんびりとした自然の中でリフレッシュすることを目的としていた。
日差しが柔らかく、周囲の緑がやさしく包み込んでいたが、何かが彼の心の奥でざわめいていた。
自分がいるこの場所に、かつて何かがあったのではないかという感覚だ。
そんなモヤモヤを抱えながら、健一はさらに歩を進めると、ふと目に入ったのは、古びた神社の形をした建物だった。
周囲には誰もおらず、彼は妙な感覚に駆られつつも好奇心が勝った。
健一は神社の境内に足を踏み入れると、静寂の中に何かが潜んでいるのを感じた。
木々のざわめきもなく、空気が重く圧を感じるようだった。
そっと中に入ると、石造りの祭壇が荒れ果てた様子で放置されていた。
足元の苔が湿った空気をさらに重くし、彼は一瞬背筋が凍るような感覚を覚えた。
祭壇の前に立ち尽くしていると、突然、どこからともなく声が響いた。
「助けて…」その声は、風に乗って耳元に届くかのようだった。
驚いた健一は振り向いたが、誰もいない。
怖さを感じつつも、彼はその声に引き寄せられるように、祭壇に近づいた。
「誰かが呼んでいる…?」健一は、自らの衝動に逆らえず、無意識に手を合わせてみた。
すると、再び「ああ…助けて…」とその声は広がり、今度は周囲の空気が揺れ動くのを感じた。
恐怖を覚えながらも、彼に残された選択肢はないように思えた。
その瞬間、突然、周囲の空気が変わった。
明るかった昼間の空が、どこからともなく薄暗くなり、まるで多くの人々の目に見えない何かが集まってくるようだった。
彼は恐れを感じ、後ろに下がろうとしたが、体が動かなかった。
まるで誰かに縛られているかのように、足が動かないのだ。
「ああ…私は斉(はやし)と呼ばれる者。ここにいるものたちに救いを求めている。」その言葉は、風の中に混じり込んだように響き、彼の心に何かが触れた。
健一はその声がまさに彼に向けられていることを理解した。
健一の脳裏に浮かぶのは、かつてこの土地に生きていた人々の姿だった。
彼らの運命を知ることなく、彼はただこの場を離れようとする潔さを持っていた。
しかし、求められた者の心情は、その一瞬の恐れから変わっていく。
「彼らを知らずに疎んじてしまった人々の思い。それを背負うことに何の意味があるのだろう。もう一度、解放してやりたい。」自問自答しながら、彼は神社の周りを見回した。
どうやってこの流れを断ち切ることができるのか、焦りがこみ上げてきた。
思い立った健一は、心の底から過去の人々に頭を下げることにした。
「私はあなたたちを知らなかった。どうか安らかに眠らせてください。」その瞬間、冷たい風が吹き荒れ、健一は眩しく閃く光に包まれた。
その中で、彼は周囲の影たちが少しずつ薄れていくのを感じた。
やがて静寂が戻り、彼はただ一人の世界に戻った。
神社は再び静まり返り、空は青空に戻っていた。
しかし、健一の心には、斉の人々の思いが深く刻まれ、彼はその後しばらくの間、彼らのことを忘れることができなかった。
日々の生活に戻った彼だったが、あの出来事の影響を受けて、少しずつでも彼は人々の思いに寄り添い、無関心にならぬよう務めるようになった。
そして、いつかまたあの原っぱを訪れることを心に決めたのである。
どんなことがあろうとも、彼らを忘れずに居るために。