村田は、都会の喧騒から離れた田舎の小さな居の中で過ごすことに決めた。
彼は日々の疲れを癒すために、静かな場所で自然と共に生きることを目指していた。
しかし、田舎の柔らかな風景は、彼が予想していたよりも不気味な静けさを秘めていた。
ある晩、村田は友人の佐藤を招いて一緒に酒を酌み交わすことにした。
二人は若い頃、肝試しをしていた頃からの親友であり、互いに怖い話を語り合うのが楽しみでもあった。
夜が深まるにつれて、酔いも回り、佐藤が突然、思い出を語り始めた。
「昔、うちの近くにあった神社に、サスケという男がいたんだ。彼は自分の仲間を集めて、毎年肝試しをしていたんだが、その年の祭りの後、彼は行方不明になったという噂が広まった。今年の初めに、彼の音声が録音されたテープが見つかったと言われている。内容は…。『誘われている、助けてくれ。この間に取り込まれそうだ』っていうものだった。」
村田はその話を聞いた瞬間、背筋が寒くなるのを感じた。
彼は無理に笑顔を浮かべ、「そんな話、今更信じるわけないだろう」と言ったが、心の奥では不安が生まれていた。
その翌夜、村田は一人で居に戻った時、何かが彼を呼んでいるような感覚に襲われた。
風が窓を揺らし、月の淡い光が部屋の中に入ってきた。
ぼんやりとした意識の中で彼は、目の前に薄い影が現れたのを見た。
それは彼に向かって、そっと手を伸ばすように誘っている。
村田は恐怖を感じ取りながらも、その影の輪の中へ足を踏み入れると、周囲がみるみる間に暗くなり、まるで別の世界に引き込まれたかのようだった。
目の前には、長い間見たことのない風景が広がっていた。
彼の知っている景色はどこにもなく、ただ影が踊っているだけだった。
不安と恐怖が高まり、彼は周囲を見渡した。
すると、輪の中にいたはずの佐藤の姿が見えた。
彼もまた、その暗い世界に取り込まれているようだった。
村田は言った。
「佐藤、何が起きているんだ!」しかし、答えは返ってこない。
佐藤は彼の方を見て、何かを訴えるように喉を鳴らしたが、その声は風に消えてしまった。
そのとき、影が近づいてきた。
村田はその姿に心を奪われ、何も考えられなくなった。
影は彼に言った。
「お前もこの間に取り込まれてしまえ。ここには誰も帰れないのだ。」
村田は恐怖を感じ、必死に逃げようとした。
しかし、その瞬間、影の輪が彼を取り巻き、逃げ道を奪ってしまった。
影の声が頭の中に響く。
「お前も私たちの仲間になるのだ。お前が夢見ていた静けさは、ここでもたらされる。」
やがて、淡い光が消え、村田の意識は徐々に失われていった。
彼はただ、暗い影の中で取り囲まれ、動けなくなっていた。
村田が目を覚ましたとき、彼は居の中に戻っていた。
しかし、周囲は異様な静けさに包まれていた。
彼は何かを失ったような感覚を抱きながらも、自分が体験したことが夢だったのだろうかと考えた。
しかし、その直後、彼の携帯電話が鳴り、友人からの着信があった。
受話器を取ると、か細い声が耳に入ってきた。
「助けてくれ、間に取り込まれている…」それはまさに佐藤の声だった。
村田は、彼が引きずり込まれた暗い影と、その間に秘められた恐怖が永遠に続くことを理解した。
その夜、彼は自分が取り込まれたことを実感する。
居の静けさは彼にとって、もはや安らぎではなく、恐怖の象徴となっていた。
影は彼の心の奥に潜り込み、彼を囚われのまま、永遠に引き込む準備を整えていたのだった。