青い月光が照らす静かな夜、田舎の小さな集落には、一つの古びた神社があった。
村人たちはその神社を避けるようにし、神主の小林さん以外は、寄りつくことがなかった。
彼は小さな神社を守る者として、日々の祭りを執り行い、神様への祈りを捧げていた。
しかし、彼の心の奥底には、秘められた恐怖が潜んでいた。
この神社には、古くから伝わる言い伝えがあった。
月が最も青く輝く日の夜に、ここで何かが動き出すというのだ。
その動きは、助けを求める声を持ち、村人を引き寄せていく。
しかし、近づく者は誰も帰っては来なかった。
小林さんは、何度も村人に注意を促していたが、ある晩、小さな男の子が神社に迷い込んでしまった。
名前は一郎。
彼は友達と遊んでいるとき、神社の境内に迷い込んでしまったのだ。
青い月の光の下、一郎は神社の中に吸い込まれるように足を踏み入れ、神主の声を無視して、奥深くまで進んでいった。
一郎が神社の奥に進むにつれ、周囲の空気が重くなるのを感じた。
小林さんが必死に呼び止めようとするが、その声が届かない。
すると、突然一郎の目の前に、一つの影が現れた。
それは、ぼんやりとした人影で、どこか懐かしい顔をしていた。
彼の祖母の姿だった。
「一郎、こっちへ来て…」影は優しく呼びかけた。
まるで夢の中にいるかのような感覚の中で、一郎はその声に導かれるまま、歩みを進めた。
しかし、その瞬間、小林さんは強い予感に駆られた。
彼は一郎を助けるため、急いで神社の奥へと飛び込んだ。
そこには、祖母の姿が消え、一郎だけが立ち尽くしていた。
小林さんは彼に近づくと、恐ろしい気配を感じた。
神社に伝わる言い伝えが間違いでないことを理解し、一郎を引き戻そうと手を伸ばした。
すると、影が一瞬戻り、再び彼の祖母の姿が現れた。
「助けて、私を解放して…」その声は悲しみに満ち、切実だった。
小林さんは思わず目を背け、一郎に叫んだ。
「戻れ、早く逃げるんだ!」
しかし、一郎は影に引き寄せられ、まるで操り人形のように動かされた。
神主の悲鳴が響いた時、辺りの空気は一層重くなり、青い月もじわじわと欠けていくように見えた。
その瞬間、影が一郎を包み込み、小林さんは次の瞬間、彼の心の中に深い恐怖を感じた。
「もう戻れない…」影が冷たく囁くと、神社の奥には無数の影が現れ始めた。
それらは、過去に神社で消えていった村人たちの影だった。
彼らは皆、声を持たないまま、ただ彷徨っているようだった。
一郎はその影たちの中に組み込まれ、自らの存在が徐々に消えていくのを感じた。
小林さんは必死で百の祈りを捧げ、神様に助けを求めた。
しかしその瞬間、影たちが一斉に叫び声をあげ、小林さんに襲いかかった。
その声は恐怖に満ち、まるで彼を引きずり込もうとしているかのようだった。
彼は何とか抵抗し、一郎を取り戻そうと必死になる。
だが、青い月は彼らに迫る影を照らし続け、一郎の姿はますます薄くなっていった。
小林さんは、ついに理解した。
一郎はこの神社に留まることが運命であり、運命付けられた者たちの仲間となってしまうのだと。
その時、影の中から彼の祖母の声が聞こえた。
「お前も来ないか…」
小林さんは恐怖で声を失った。
影に飲み込まれ、次第に何もかもが消えていく中で、彼はただ、一郎の隣に立つ影となる自分を想像した。
青い月の明かりが薄暗くなり、神社には今も、誰も戻らない声だけが響いていた。