辺鄙な山奥にある小さな集落、霞村。
そこには、古くから受け継がれてきた掟があった。
それは、「村の者に恥をかかせてはならない」という義理であり、村人たちはこの教えを非常に重んじていた。
特に、村の若者たちは、親から厳しく教えられ、義理を守ることが重視されていた。
ある日のこと、村の若者である佐藤健一(さとうけんいち)は、友人たちと山に登って遊んでいた。
しかし、日が暮れると、不安が募った。
時間を忘れて遊んでいたせいで、山道を下る頃にはすっかり暗くなっていた。
健一たちは慌てて集落へ戻ることにした。
道を急ぐ中、健一は突然、足元に何かを見つけた。
それは、飴細工のような形をした小さな露(つゆ)で、夜の静けさを吸い込んで輝いていた。
健一は友人に見せようとしたが、彼らは急いで帰りたがっていた。
「早く行こう!こんなところにいるべきじゃない!」と友人たちが言い、結局、健一一人がその露を手に取った。
「これは何だろう?珍しい。」と健一は不思議に思いながらも山道を下り続けた。
すると、急に無数の声が耳に響き始めた。
「お前は義を忘れたのか?」「この露を持つ者は、義理を破った者として割り当てられるのだ。」それは、村の祭りで見かけた言い伝えに並ぶ不気味な声だった。
健一は恐怖を感じて急いで村へと戻ったが、その日の夜、自分の部屋でその露を机に置いた瞬間、異変が起こった。
露からは白い蒸気が立ち上り、部屋全体が薄い霧で覆われていった。
目の前に現れたのは、村の昔の者たちの霊だった。
彼らは不安そうな顔をしていて、健一をじっと見つめていた。
「私たちはこの村の義を守る者たちだ。この露は我々が長い間見守ってきた義理の象徴。お前はこれを手にしたことで、村の掟を破る運命にある。」霊たちは次第に声を高め、健一は恐怖で震え上がった。
「俺は何も悪いことはしていない!」と叫んだが、霊たちの意志は固く、割りに合わない運命から逃れることはできなかった。
翌日、健一は村の長老に助けを求めた。
「長老、助けてください。昨夜、不気味な霊たちに囲まれました。これが捨てられない理由を教えてください!」長老は彼の話を静かに聞いていたが、やがて頷いた。
「お前が拾った露は、我々の村の掟を破ろうとする者に、不浄な運命をもたらす。お前の持つ義理が試されているのだ。」
そう言うと、長老は健一に告げた。
「お前はこの露を村の中央にある神社に捧げ、義理を果たさねばならない。それが、村とお前自身を救う唯一の道だ。」健一は決意を固め、霧が立ち込める山道を再び登った。
ついに神社にたどり着いた健一は、露を神社の祭壇に置いた。
彼は心から村を思い、義理を再確認した。
「私はこの村のために生き、守りたい。」その瞬間、周囲が明るくなり、霊たちが微笑んでいる姿が見えた。
彼らは彼の思いを汲み取り、祝福を送っていたのだ。
その後、村には不思議なことが起こらなくなった。
健一は義理を果たしたことで、村人たちの強い信頼を得て、村の未来を守る一員となった。
彼はその後、一生をかけて村の掟を守り、後の世代に伝えていくことを誓ったのだった。