「霧深き山の試練」

その日、山は深い霧に包まれていた。
街から出発した乗(のり)は、友人と共にハイキングに出かけることに決めた。
みんなが楽しむために、乗は自分がよく知っている山を選んだが、彼の心には少し不安が残っていた。
母から聞いた昔の話のせいだ。

「この山には、過去に試練を与える霊が住んでいるって、知ってるか?」母は言っていた。
「もし霊に認められなければ、帰ってこられないかもしれないよ。」

その話は乗の心に残り、友人たちには口に出して言わなかったが、不安は消えることはなかった。
山に入り、彼らはしばらく楽しく笑い合ったが、霧が深くなるにつれて、次第に景色がぼやけていく。
友人たちは「これが本物の冒険だ!」と盛り上がっていたが、乗は何か違和感を覚えた。

険しい道を進むうちに、霧はますます濃くなり、周囲の音もかき消されていく。
乗の心に不安が広がっていく。
彼は何かが間違っていると確信し、友人たちに戻ることを提案した。
しかし、彼らは興奮していて、もう少し先に進もうと insist した。

乗は友人たちについていくが、霧がますます迫りくると、結局みんなが近くにいるのかさえわからなくなった。
周囲は静まり返り、不安がさらに募る。
霧の中で友人の声がすれ違うように聞こえたが、どこにいるのか全く見えない。
混乱と恐怖で心が乱れたとき、背後から何かが視界に入り込んだ。

それは人影だった。
乗は背筋が凍る思いで、その影に目を凝らす。
形は人のもので、だが何かおかしい。
影はじっと乗を見ているように感じられた。
乗は立ちすくみ、どうしていいかわからなかった。
そうするうちに、影が風に乗って霧の中に消えていく瞬間、彼はその影の持つ試練のようなものを感じた。

「乗、どこにいるの?」と友人の声が霧の向こうから聞こえる。
焦りと恐怖の中、周囲を探そうとすると、再び同じ影が現れた。
今度は目を赤く光らせ、乗に近づいてくる。
彼はすぐに逃げ出したが、影は驚くほど速く、乗の後を追ってくる。
焦った乗は必死に進み、友人たちの声を探した。

しかし、その声は次第に遠くなっていく。
そして、乗はふと、オープンスペースにたどり着いた。
霧は和らぎ、目の前には美しい木々が広がっていた。
しかし、その瞬間、乗は何かが間違っていると直感する。
視界の端に、ある街の風景が見えた。
それは彼らが住んでいる街で、まるで夢の中のように朦朧としていた。

乗は振り返る。
影はすぐ背後に迫っていた。
その顔は見えなかったが、何か確実に試すかのような冷たい存在感を感じた。
心が震え、助けを求める叫び声を発した。
しかし、声は霧に飲まれていく。

乗は逃げ続けたが、影は自分との距離を縮めていく。
乗は全力で走り続け、その瞬間、ふと、影が消えたのを感じた。
彼の息が荒くなる。
友人たちの姿も見当たらない。
思い出すのは、母の言葉。
試練はまだ続いているのか。

その後、乗はようやく街に戻ることができた。
友人たちは見つからず、誰も彼を心配していないようだった。
みんなが彼の話を野次馬次第として処理し、「ああ、大丈夫」と微笑んだ。
その笑顔の裏に何かが潜んでいるように思えてならなかった。
乗は、あの霧の中で何が試されたのか、今もなお理解できずにいる。

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