深い山間にひっそりと佇む小さな村があった。
村は常に霧に包まれ、訪れる者はほとんどいなかった。
村人たちは外から来る者を恐れ、その存在を隠すように暮らしていた。
彼らは古くから伝わる言い伝えを信じていたからだ。
「外の者がこの村に足を踏み入れると、不幸が訪れる」と。
ある日、大学生の健太は、友人のまおとともにキャンプを計画した。
彼らはスマートフォンで「秘境の村」を見つけ、好奇心に駆られてその場所を目指した。
車を数時間走らせ、ついに村に辿り着くと、周りには不気味な静けさが漂っていた。
「本当にここに人が住んでいるのかな?」まおが言った。
健太はただうなずくしかなかった。
村には誰もおらず、古びた家々が寂しげに並んでいた。
それでも、彼らは探検を始めることにした。
霧がふんわりと村を包み込み、ますます神秘的な雰囲気を醸し出していた。
村の中心にある広場には、一見普通の石像が立っていた。
しかしその表情はどこか不気味で、まるで彼らを監視しているかのようだった。
「この石像、変じゃない?」まおが指をさすと、健太も頷き、何となく嫌な予感がした。
しかし、勇気を出して近づくと、不意に背後で物音がした。
二人は振り向いた。
そこには、一人の年老いた村人が立っていた。
彼の目は深く憂いを秘めており、口は重かった。
村人は「この村に来てはいけない」と言った。
「外の者がここにいると、災いが訪れるのだ。すぐに立ち去るがよい。」
健太は「大丈夫です、すぐに帰ります」と答えたが、まおは何かに引きつけられるように石像に近づいていた。
「この石像、どうしてこんなに迫力あるんだろう?」とつぶやきながら、彼女は無意識にその手を伸ばした。
その瞬間、健太の中で恐怖が広がった。
彼は「まお、やめろ!」と叫んだが、声は彼女には届かなかった。
石像に触れたまおの表情が急変した。
まるで何かに取り憑かれたかのように目が見開かれ、まおはその場から逃げ出していった。
健太は急いで追いかけ、叫んだ。
「まお、待ってくれ!」しかし、まおは恐れに駆られて、霧の中へと消えていった。
その後、健太は必死になって村を駆け回った。
彼は村人たちに助けを求めたが、誰も口を開こうとせず、ただ目を逸らすばかりだった。
逃げるまおの姿はどこにも見当たらなかった。
健太は次第に焦燥感と孤独に襲われ、村の周囲を探し回った。
「まお、どこにいるんだ!」と叫びながら、健太は心の中で彼女の無事を願った。
その時、不意に背後から低い声が聞こえた。
「もう遅い…。」
振り向くと、そこにはあの石像が立っていた。
しかし、今は別の意味での恐ろしさがあった。
石像は動き出し、健太に向かって近づいてきた。
怯えた健太は背後に逃げたが、霧が彼の視界を奪い、逃げ場を失った。
そして、再び声が響いた。
「あなたも忘れられる。ここにいる者は皆、過去の罪を背負うのだから。」その瞬間、健太の身体が重くなり、足が地面に張り付いた。
彼は、自らの過去が一気に甦るように感じた。
村に来る前、彼が友人や知らない誰かを傷つけていたことを。
石像はさらに近づき、冷たい手で健太の肩を掴んだ。
彼は逃げようとしたが、動くことすらできなかった。
まおの姿はどこにも見当たらず、彼女の笑い声ももう聞こえなかった。
健太は、恐怖と絶望に包まれながら、村に根を生やすように固定された。
それから、村は再び静まり返り、霧に包まれた。
村人たちは新たな言い伝えを作って語り継いだ。
「外の者が村に足を踏み入れると、誰もが過去を背負い、逃げられなくなるのだ」と。
村の入口には、彼らが二度と訪れることのない事を願うかのように、再次、石像が立っていた。