ある小さな村に、古い木が一本立っていた。
この木は村人たちにとって特別な存在で、長い間彼らの生活を見守ってきた。
しかし、村の人々はここ数年、不気味な噂が立つようになった。
特に霧が立ち込める夜には、その木の周囲で奇妙な現象が起こると信じられていた。
ある秋の夜、大学生の佐藤亮は、友人の川崎美咲、田中誠と一緒にその木を訪れることに決めた。
彼らは冒険心に溢れ、村の伝説を探るつもりだった。
彼らは学校から帰る途中、薄暗い道を通り、やがて有名な木に到着した。
その頃には霧が立ち込め、あたりは不気味な静寂に包まれていた。
「ここがその木か…」と美咲が言った。
木の幹は異様に太く、枝はどこか歪な形をしていた。
「なんだか不気味ね」と誠が言ったが、亮はそんな彼らを軽く笑い飛ばした。
「怖がることはないよ。せっかくだから、何か掴もうぜ。」
彼らは木の根元に円を描くように座り、霧の中で何が起こるのかを待った。
初めは静かだった。
しかし、徐々に風が強まり、霧はますます濃くなっていった。
その瞬間、亮の目の前に何かが見えた。
「ほら、見て!」亮は指さした。
霧の中から、不気味な手が伸びてきていた。
人間の手のようだが、どこか不気味に歪んでいる。
指先がゆっくりと彼らに向かって進んできた。
「あれは何?」美咲の声は震えていた。
誠もその光景に思わず息をのむ。
手はどんどん彼らに近づいていく。
「こ、これって本当にヤバいかも…逃げよう!」誠が叫んだ。
しかし、亮はその場から動けなかった。
「何か知りたくて来たんだろ?それなら、その手に触れてみようぜ」と無邪気な笑顔を浮かべて言った。
美咲と誠は驚愕し、彼を引き止めようとしたが、その手はまるで自らの意志を持つかのように、亮に向かって迫っていった。
「待てよ!亮、やめろ!」誠が必死に叫ぶが、亮はその不気味な手に興味津々で近づいていく。
霧がさらに濃くなり、周囲の音が消え去った。
手が亮の手に触れた瞬間、彼の体は一瞬で硬直した。
眩い光が彼を包み込み、周囲の木々が彼の声を掻き消した。
その瞬間、手は亮の体を引き寄せ、彼はまるで何かに吸い寄せられるように、霧の中に消えてしまった。
美咲と誠は呆然として立ち尽くし、何が起こったのかわからなかった。
亮の姿はもうなかった。
「嘘…だろ、亮!」美咲が泣き叫び、誠も動揺して足元をふらつかせた。
霧が少し晴れ、手は再び根元に戻りつつあった。
「彼を助けなきゃ!」誠が言ったが、いくら叫んでも返事はなかった。
便宜上やってきた霧の中に亮が消え去ったとき、それはまるで彼が遠くに行ってしまったかのような感覚を残していた。
その後、村では亮の消息が途絶えて何日も経った。
美咲と誠は毎日のように木のもとを訪れ、亮を探し続けたが、彼の影を追うことはできなかった。
霧の夜が近づくたびに、二人は恐怖と悲しみを胸に抱えながら、もう一度その木を訪れることに決めた。
しかし、その木の前に立って一晩過ごすことで、彼らは徐々に気づき始めた。
「あの手は遠い世界から来ていたのかもしれない。」亮はもう戻らない。
そして、彼女たちは、霧がかかる夜には決してその木には近づいてはいけないと心に誓った。