ある夜、私は友人たちと共に洞窟(窟)を探検することにした。
地元の人々が口にする不気味な伝説に興味を持っていたからだ。
その伝説によれば、この洞窟には霧が立ち込め、その霧の中には失われた願いが隠されているという。
しかし、そこに入った者は、慎重に行動しなければならないと言われていた。
なぜなら、その霧が心の奥底に潜む望みを具現化し、時には恐ろしい現実と対峙することになるからだ。
私たちは興奮しながら洞窟の入り口に足を踏み入れた。
石の壁を手で触れながら進むと、次第に周囲は薄暗く、湿気が漂ってきた。
進むにつれて、霧が私たちの視界をぼやけさせ、何かが私たちを見守っているような気配を感じていた。
友人たちの笑い声も次第に小さくなり、静寂が広がっていく。
「これ、本当に大丈夫なのか?」と一人の友人が不安そうに言った。
私は努めて笑顔を作り、「平気だって!伝説なんてただの噂さ」と言ったが、心の中には不安が広がっていた。
さらに奥へ進むと、霧が濃くなっていき、視界はほとんど真っ白になった。
私たちは互いの存在が不確かになり、間(あいだ)が少しずつ埋まっていくような感覚を覚えた。
どれだけ進んでも出口は見えず、焦りが増していった。
呼吸が重くなり、心の奥から願いごとが湧き上がる。
私はこれまで叶わなかった夢を思い描く。
「こんな場所で…私の望みは叶うのかもしれない」と一瞬思ったが、すぐにその考えを振り払った。
その時、霧の中から友人の一人が叫ぶ声が聞こえた。
「こっちだ!見てみて!」その声に驚き急いで向かうと、彼が指さす先には小さな泉があった。
そこには、静かな水面が広がり、霧の中に淡い光が差し込んでいた。
泉の水は透明で、その底には何かがゆらめいているのが見えた。
友人たちがすでに泉の周りに集まっていた。
彼らは水を手ですくい、じっと見つめていた。
その時、霧が一瞬だけ晴れたように思えた。
目の前には、一つの影が浮かび上がる。
それは私たちの置いてきた望みの影だった。
夢のきらめきや消えた希望の姿が、泉の中で揺れていた。
私は背筋が凍る思いでその光景を見つめた。
願いが形となって目の前に現れることが、本当に恐ろしいことだとは思ってもみなかった。
そこにあるのは、私たちの想いの輝きではなく、実現されなかった欲望の暗い影だった。
「やめよう、ここから出よう!」私は叫び、友人たちを引き戻そうとした。
しかし、彼らの目はすでに水面に引き込まれ、意識がどんどん遠ざかっていく。
彼らは自分の夢を追って、霧の中に溶け込んでいくようだった。
私は一人残され、焦燥感が押し寄せる。
洞窟全体が迫ってきて、霧がますます深くなり、呼吸すら苦しくなった。
意を決して逃げ出そうとしたその時、霧の中から再び友人の声が聞こえてきた。
「魅零、助けて!ここから出られない!」その声に振り向くと、彼の姿は霧の中に消えかけ、求められるように佇(たたず)んでいた。
私もまた、彼を助けたいという想いが頭をよぎる。
しかし、その渦巻く霧が私の心を掴み、どこに向かえばよいのかわからなくなっていた。
恐怖に駆られた私は、ただ出口を目指して何度も何度も走り続けた。
けれども、霧は私を巻き込み、どこまでも行く手を阻む。
次第に、私の心の中で望みを叶えることへの恐れと、その果てに待つ運命が渦巻いていくのを感じていた。
その夜、私は洞窟から出ることができなかった。
霧が立ち込めたまま、永遠に失われた友人たちの声が響き続けていた。
忘れられた望みの中に、私は自分自身を見失ってしまったのだ。
そして霧の中では、望みと現実の間で迷い続ける者たちの姿が連なっている。