かつて、山深い村にひっそりと佇む「ポ」村があった。
この村は、霧に包まれることが多く、それが村の神秘を生んでいた。
しかし、村の人々はその霧に恐れを抱き、しばしばその中に潜む「呪い」の影を噂していた。
村には、健太という青年が住んでいた。
彼は母親と二人三脚で日々を過ごしていたが、彼には心に秘めた想いがあった。
それは、幼なじみの美咲に対する恋心だった。
美咲は健太にとって、かけがえのない存在であり、二人は小さい頃から一緒に育ってきた。
しかし、村人たちの言い伝えによると、霧の中には悪霊が潜んでおり、村の人々は決して霧の中に入ってはいけないとされていた。
ある日、村に重い霧が訪れた。
それは特に濃く、不安を煽るほどのもので、村全体が視界を失った。
健太はその夜、美咲の家の近くに立っていた。
美咲は霧の中に消えてしまうことを心配しながら、彼女に会いたい一心で立ち尽くしていた。
彼は自分の想いを伝えたくてたまらなかったが、村の呪いとされる霧への恐れが彼の心を重くしていた。
その時、美咲がふと現れ、明るい声で呼びかけた。
「健太、そこにいるの?」彼は思わず答えた。
「美咲! ここだよ!」彼女の元へ駆け寄ると、彼女の隣に立つことができた。
「この霧、変だよね」と美咲が言った。
「何か悪いことが起きそうな気がする。」
「でも、一緒にいるから大丈夫だ」と健太は強がりながら言った。
彼は美咲と手をつなぎ、彼女を守ることを決めた。
霧の中での彼らの絆は、彼の心を勇気づけるには十分だった。
しかし、二人の周囲はだんだんと異様な静けさに包まれ、恐怖が二人の心を掻き立てた。
突然、霧の中から低い声が響いてきた。
「お前たちの絆は壊れる」と。
その声は、村人たちが語り継いできた呪いのように聞こえた。
美咲は震え上がり、健太は心がざわつくのを感じた。
「逃げよう。ここから出よう」と彼は言った。
二人は手をつないで霧の中を駆け出した。
しかし、霧はどんどん濃くなり、視界が完全に失われてしまった。
視線が不安定になり、彼らはどれだけ走り続けても、村を見つけることができなかった。
その瞬間、健太は何かが彼を引き留めていることに気付いた。
「美咲、待って!」彼は振り返った。
すると、美咲の顔が恐怖で歪んでいた。
「健太、私の手が…」言葉が出た。
同時に、彼女の手が健太の手から滑り落ちてしまった。
「やめて、戻ってこないで!」彼は叫んだが、美咲はじわじわと霧の中に引き裂かれ、視界から消えてしまった。
呪われた霧の中で、健太は一人になってしまった。
彼の心は重く、胸が締め付けられるようだった。
絆が断たれた瞬間、信じていた全てが崩れ去るような感覚に襲われた。
美咲を救えなかった悲しみから、彼はその場に崩れ落ちた。
ただ影だけが彼を包み込み、彼は霧の中にただ佇むしかなかった。
時が経つにつれて、その記憶は彼の心に静かに埋もれていった。
しかし、霧は今でもその村を覆い、彼の心には美咲との絆は決して消えることのない思い出として残り続けた。
彼は信じることを忘れなかった。
どんなに遠くに離れても、心の中ではいつも美咲とつながっていると。