「霧に魅せられし者たち」

ある静かな秋の夜、村の外れにある古い森で、若い女性の由紀は友人たちとキャンプをすることにした。
彼女たちは日常から離れ、自然の中でリラックスしたいと考えていた。
湖畔の美しい場所を選び、夜空に広がる星々を楽しみながら、焚き火を囲んで語り合うことにしたのだ。

「ここの森は、実は不気味な話がたくさんあるんだって」と、友人の正志が言い始めた。
「特に、夜になると霧が立ち込めることがあって、その霧の中に入ったら、二度と戻れないって噂があるんだ。」

由紀はその話に少し不安を感じた。
「でも、そんな話は都市伝説でしょ?恐がる必要なんてないよ。」彼女は笑いながら答えたが、心の奥には不安が残った。

夜が更けるにつれて、周囲は静寂に包まれ、焚き火のパチパチという音だけが響いていた。
友人たちが楽しそうに話す姿を見ながら、由紀はしばらく忘れていた恐怖を再び思い出した。
そんな時、突然、風が吹き荒れ始め、木々がざわめき出した。
彼女たちの周りに薄暗い霧が立ち込めてきたのだ。

「これが噂の霧なのかな…」由紀は心の中で呟き、恐れを感じ始めた。
しかし、正志や他の友人たちは霧の中に入り込むことで新たな冒険を感じたようだった。
「ちょっと行ってみようよ!」と正志が言うと、彼は一歩霧の中へ進み出た。

「行かないで、正志!」由紀は叫んだが、彼の声はすぐに霧に吸い込まれるように消えてしまった。
その瞬間、他の友人たちも霧に魅かれ、次々と中に入っていった。
由紀は一人、焚き火の周りで立ち尽くし、彼らが戻ることを祈った。

霧の中では、何が起こっているのかわからなかった。
由紀の心は不安でいっぱいだった。
「彼らは戻ってくるはず…」彼女は自分に言い聞かせた。
しかし、時間が経つにつれて、戻ってこない友人たちに対する恐怖が膨れ上がっていった。

ようやく、彼女は決意を固めた。
「行かなきゃ…彼らを助けなきゃ。」由紀は深呼吸をし、霧に足を踏み入れた。
すぐに視界は真っ白になり、方向感覚を失ってしまった。
名前を呼び続けながら進むものの、友人たちの声は聞こえない。
心臓は早鐘のように鳴り、恐怖が押し寄せてきた。

「正志、他のみんな!」由紀は叫び続けたが、返事はない。
彼女の心は重く沈み、何か冷たいものが近づいてくる気配を感じた。
その時、ふと霧の向こうにひかりが見えた。
おそるおそる近づくと、そこには小さな灯籠があった。
穏やかな光が霧を少し和らげ、彼女の心に安らぎをもたらした。

しかし、周囲には影が立ち尽くしていた。
それは彼女の友人たちで、静かに彼女を見つめていた。
「助けて、由紀…」その声はかすかで、まるで遠い世界からの呼びかけのようだった。
何かが彼女を引き止めようとしている。
それは彼女の心の中に潜む恐れであり、不安だった。

「いや、私はここから逃げる。彼らを助けなきゃ!」由紀は自分を奮い立たせ、友人たちの元に駆け寄った。
しかし、その瞬間、冷たい手が彼女を掴み、引き戻した。
何度も叫び続けるが、声は届かず、心の中には恐怖が渦巻いていた。

「お前もここに留まる運命なんだ」と影たちが呟く。
由紀は自分の心の闇と向き合う覚悟を決めた。
「友人たちを助けるためには、私が立ち向かわなければならない。私の命をかけるんだから…」

心の中の恐れや未練を受け入れ、由紀は叫んだ。
「私は私の信念を守る!彼らを助けてみせる!」すると霧が揺らぎ、影たちが後退した。
その隙を見逃さず、彼女は友人たちを掴み、光の方へ一緒に走り出した。

飛び出した瞬間、彼女たちは明るい月明かりの下に立っていた。
真っ白な霧は消え、静かな森の音だけが響いていた。
振り返ると、影たちはもうそこにはいなかった。
由紀は友人たちと肩を抱き合い、勝利を感じた。
そして、彼女の心の奥には、二度と忘れない教訓が残されたのだった。

タイトルとURLをコピーしました