ある日のことであった。
青年の太郎は、仕事のストレスを忘れるために友人たちと一緒にハイキングに出かけることにした。
目的地は山奥にある小さな村、長い間廃村と化していたその村には、聞くところによると、未だに人々の霊が彷徨っているという噂があった。
夜の帳が降りるにつれて、太郎たちは村を目指して歩き続けた。
薄暗がりの中、古びた神社や朽ちかけた家々が見えてくる。
周囲は静まり返り、風のひと吹きも、何かが隠れているような不気味さを加速させていた。
「やっぱりここに来るべきじゃなかったかもな…」太郎は心の中でつぶやいたが、仲間たちはその不気味な雰囲気を笑い飛ばしていた。
どうにかして村に辿り着いた彼らは、真っ暗な中で道に迷うことになった。
静寂を破る声はただの囁きや風の音だけで、心のどこかに不安を植え付けていく。
しばらくして、太郎の目の前に小さな道が現れた。
そこには古びた看板が立っており、「霊の道」とだけ書かれていた。
興味本位でその道を進むことにした太郎は、徐々に仲間とはぐれてしまった。
彼は「待って!」と叫ぶも、返事はない。
恐れを感じながらも、さらに道を進むと、突然、足元の地面が崩れ落ちた。
太郎はとっさに手を伸ばしたが、すでに遅かった。
彼は深い穴へと滑り落ち、土埃の中に埋もれていった。
気がつくと、太郎は地下のような、不気味で静かな空間に横たわっていた。
周囲にはかすかな光が漏れ、古びた縄や木の根が絡まる不気味な空間は、まるで他の世界にいるようだった。
彼は必死で立ち上がり、辺りを見回したが、そこには誰もいなかった。
その時、耳元で微かな囁き声がした。
「助けてほしければ、道を選んでみろ」という声だった。
太郎は恐怖と困惑の中で自らに問いかけた。
「選ぶ?何を選ぶんだ?」周囲には無数の小道が存在していたが、どれもが同じように崩れかけた地面に見えた。
彼は無意識のうちに、最も光が強い方へと足を進めてしまった。
その先には、かつて人々が住んでいたであろう集落の廃墟が広がっていた。
道の両側には、背の高い草が生い茂り、さらに多くの無数の道が繋がっている様子が見えた。
「ここはどこだ?」と疑問に思ったとき、再び耳元で声音が響き渡った。
「選ばれた者だけが戻れ、選ばなかった者は永遠に迷う」
太郎は背筋を凍らせ、その声に対抗するかのごとく「私は戻りたい!」と叫んだ。
すると、不気味な笑い声が耳元に響いた。
「その思いが本当に強いなら、選びなさい。選ぶことは、失うことでもある」と。
彼は冷静さを手放し、混乱の中で道を選ぶことにした。
選んだ道は、洞窟のような暗い空間へと通じていた。
太郎はそこを進むにつれて、何かを見つけようと不安にかられていた。
道の奥に辿り着くと、彼の前に一人の女性が現れた。
彼女は哀しげな目をした死者のようで、ゆっくりとした仕草で太郎に手招きした。
その瞬間、太郎は心の奥から来る声を聞いた。
「彼女が誘うのか、背を向けるのか、選ばなければならない」。
太郎はその選択に恐怖を感じながらも、自分の心の中で何かが解放されていくのを感じた。
「戻らなければならない」と、彼は決意を固めた。
彼は振り返り、幼い頃の楽しい思い出を思い出そうとしたが、その瞬間に周囲の空間が歪んでいくのが分かった。
声が再び彼を囁いた。
「戻るということは、全てを失うことを意味している」、その言葉に恐怖を覚えながらも、太郎は自らの意志を信じて出口を目指した。
その後、太郎は興味本位で選んでしまった道が彼を罠にはめていたことを理解した。
懸命に道を繋いでいくと、彼は崩れかけた地表を越え、最後に光が見える場所へと辿り着いた。
彼は全力でその光へ向かって走り抜けた。
太郎が目を開けると、自分は友達の呼び声に包まれるようにして現実の世界へ帰っていた。
仲間たちは彼を心配して探していたらしい。
けれども、彼の心には強い後悔と同時に、その場所に戻りたいという誘惑が存在していた。
あの選択は果たして正しかったのだろうか。
その後、太郎は何度もその場所に戻りたくなるが、進むたびに毎回同じ声に出会うことになる。
「選ばなければならない、選ぶことは失うこと」。
彼はその言葉の重みを胸に抱え、今でもどこかで迷い続けているのだ。