ある夏の夜、友人の集まりで盛り上がった壮太たちのメンバーは、北海道のトンネルに肝試しに行くことに決めた。
そのトンネルは、昔から「霊が出る」と噂されており、特に夜に訪れると霊の華が見えるという言い伝えがあった。
壮太は友人たちと共に、その真偽を確かめることにした。
夜が深まるにつれて、彼らはトンネルの入り口に到着した。
外は暗く、風の音だけが静寂を支配していた。
壮太は緊張しながらも、負けずに「さあ、行こう!」と言って踏み出した。
友人たちも彼に続き、続く道へと進む。
トンネルの中はひんやりとしていて、周りの音はまるで消えたようだった。
彼らが歩くごとに、壁に染み付いた苔や、水滴が落ちる音が不気味さを増していく。
壮太は心の中で何度も自らに言い聞かせた。
「大丈夫、ただの噂だ」と。
進むにつれて、友人の一人、健太が「ねぇ、このトンネルの奥から変な声が聞こえない?」とつぶやいた。
その声に急に不安が広がり、壮太たちは立ち止まった。
耳を澄ませると、確かにかすかな囁き声のようなものが聞こえてきた。
誰もがその声の正体を恐れたが、好奇心が勝り、壮太は声のする方へ向かおうとした。
「行くの?本当に?」と、友人の由美が止める声を聞くが、壮太は彼女を無視して先に進んだ。
足元の石が転がる音だけが響く。
そして、その瞬間、トンネルの奥から白い光が見えた。
壮太はその光が不気味なことに気付き、その場で足を止めた。
「これはいったい何だ?」壮太はドキドキしながら手を伸ばし、その光に近づく。
しかし、一歩踏み出すと、その光が急に消え、真っ暗な空間に包まれてしまった。
友人たちも慌てて彼の元へ駆け寄ろうとするが、次の瞬間、彼らの間に何かが現れた。
それは、白い着物をまとった女性の霊だった。
光の中に溶け込むように現れた彼女の目は悲しみと恨みをたたえていた。
「助けて…」という声が響くと、壮太は恐怖に襲われ、その場から逃げようとしたが、全員の足が固まってしまった。
その霊は、どこかの時代から抜け出してきたかのように無表情で近づいてくる。
彼女の目の前を通り過ぎた瞬間、壮太はその目が自分を見つめていることに気付いた。
その目は、自分に何かを訴えているようだった。
彼の心の中に、謎めいた言葉が響く。
「不安定な心理…それが私の姿を生んでいる。」
驚愕した壮太は一瞬目を閉じ、再びその姿を見た。
霊は徐々に形を変え、別のかたちになる。
「華…」という言葉が耳に響き、壮太は彼女の悲しみの意味を理解し始めた。
その霊は、何かを求めていると感じた。
「私たちを、この場所から解放して。」と、壮太は心の中で思った。
その願いが届いたかのように、霊の表情が和らぎ、ゆっくりと彼らを見送るように後退していった。
優雅で切ない姿は、何かを思い出させるようだったが、その背後に広がる闇は消えなかった。
不意に、周囲の空気が変わり、霊が消え去ると同時にトンネル全体が震え上がった。
壮太たちは恐怖から逃げ出し、トンネルの出口に向かって走った。
後ろでは、その声音がまだ聞こえてくる。
「不安定な心理の先には、華が広がる…」
外に出ると、友人たちは彼らの経験を疑っていた。
しかし、壮太は決してその光景を忘れることはなかった。
影すらも見えたその霊と、彼女の求めたものが何かを考え続けていた。
あのトンネルは、彼らを試し、その心を照らす場所でもあったのだ。
彼らはその後、二度とトンネルには近づかなかった。
そして、壮太はその記憶を胸に秘め、心の中で何かの変化を感じながらも、仲間たちとの絆を再確認することにした。