「電の境界、命の影」

季節は梅雨の時期、薄暗い雲が空を覆い、湿気の溜まった道を歩くと、いつもとは違った雰囲気に包まれている。
和也は、この数ヶ月、心のどこかに踏み込んではいけない領域があることを感じていた。
彼が通う道場の師、村田先生はその存在を象徴する人物だった。

村田先生は昔からの教えを守り続け、特に不思議な現象について話すことが多かった。
ある日、和也は道場の帰りに先生が語っていた不思議な話を思い出していた。
「霊が集まる場所には、命の境があるんだ。そこでは電ともち語らうと言われている。」その言葉に一種の恐れを感じたが、同時に興味を惹かれた。

夜になり、雨が降り始めた頃、和也は急に思い立って、村田先生が言っていた場所へ足を運ぶことにした。
山の向こうにあるという小さな祠が目指す場所だった。
村田先生は「露と命の交わる場所」と言っていた。
彼は何か特別なものが待ち受けていることを期待しながら進んで行った。

道を進むにつれ、雨はますます強くなり、周囲はますます暗くなっていった。
視界が悪くなり、足元の水たまりが手招きするように彼を誘った。
霧がかかり、まるで別の世界に迷い込んだような感覚に陥る。
和也は不安を感じながらも、そのまま進み続けた。

やっとの思いで祠に到着すると、薄暗い中にぼんやりとした光が差し込んでいた。
驚くべきことに、空気がしびれるような緊張感を持ち、そこには何か得体の知れない存在が待っている気配が感じられた。
彼はその場に立ち尽くし、心臓が音を立てるのが分かった。

そのとき、突然、空がどす黒い雷鳴に包まれ、周囲が一瞬にして明るく照らされた。
光の中から、村田先生の姿が浮かび上がった。
「和也、こんなところに来てしまったのか。」不気味でありながら、どこか懐かしい声が響く。

「先生、どうしてここに…?」和也は驚きと混乱が入り混じった感情を抱えていた。
村田先生は微笑みながら続けた。
「この場所には、命を求める存在がいる。それを受け入れなければ、誰もここには戻れないんだ。」

和也は思わず身を引いた。
「私はここに戻りたいだけだ。何も求めていない!」

「命とは不思議なものだ。露を吸い上げ、また土に還る。その境界を越えることで、初めて真の意味を知ることができる。」村田先生は真剣なまなざしで和也を見つめた。
和也はその言葉の意味を理解しようとしたが、恐怖で頭が真っ白になった。

周囲の空気が変わり、雷雨の音が一層強まる。
「和也、あなたには選択がある。このままここで終わりを迎えるのか、それとも命を受け入れる覚悟を決めるのか。」

和也は心の奥で葛藤していた。
この選択が全ての運命を決定づけることを理解した。
彼の心の中に、一瞬、祖母の微笑みが浮かぶ。
「私はやっぱり帰りたい。皆のもとに…」

その瞬間、明かりが瞬き、周囲が一瞬静まり返った。
雷鳴がひときわ大きく響き渡ると、無数の影が彼を取り囲んだ。
彼は強い恐怖を感じつつ、自分の選択がどんな結果を生むのかを考え続けていた。

「私は行かない!」と叫んだ和也の声が、どこか遠くで反響した。
その瞬間、全てが消え、彼は目を開いた。
気がつくと、彼は道場の床に横たわっていた。
周囲は静まり返り、村田先生の姿は見えなかった。

その日以降、和也は村田先生の教えを強く心に刻みながら、日々を過ごしていたが、あの祠の恐怖は消え去ることがなかった。
命の不思議は、彼の中に刻まれ、闇の中に潜む何かに対する敬意と恐れを覚えることになった。
自らの選択が日々の生活に影響を与えていることを、彼は忘れないでいた。

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