冬の雪が静かに降り積もる北海道の小さな村。
村は昔からの伝説に囚われていた。
特に冬になると、住民たちは”消える人々”の話をすることを避けていた。
人々がいなくなる理由は誰も知らなかったが、いつしかその話は村の禁忌となり、口にすることすら憚られるようになった。
ある日、大学生の私は、実家に帰省してきた。
雪に覆われた村は、どこか懐かしさを覚える一方、暗い過去を抱えているようにも思えた。
久しぶりに再会した友人たちとの談笑の中、1人の友人が自分の祖母が語っていた「消える人々」の話を持ち出した。
実際に村で起きたことや、私の曾祖母が3人の子供を失った話など、奇妙な体験が語られた。
私たちは若さゆえの好奇心から、深夜にその場所へ行くことに決めた。
村の外れ、雪に埋もれた廃屋。
その屋敷は人々が消えた場所として村中に知れ渡っていた。
恐怖心よりも興奮が勝り、私たちはその屋敷の中へと入っていった。
暗闇の中、私たちは携帯電話の明かりを頼りに変わり果てた空間を見賑わった。
部屋はほとんど壊れていて、所々に残された家具が異様な雰囲気を醸し出していた。
驚くことに、屋内の隅には古い写真が飾られていた。
それは子供たちの笑顔が写るもので、彼らの背景には見覚えのある景色が広がっていた。
その瞬間、私の心に不安が走った。
消えたのは、もしかしたらこの子供たちだったのではないかと。
時間が経つにつれて、友人たちの顔が怖がりの表情へと変わっていった。
何か、異様な気配を感じているらしい。
私は冷静を装い、彼らを励まし続けたが、心の中では何かが迫ってくる感覚を覚えていた。
友人が突然、何かに気づく。
「あれ、誰かいる?」彼が指差した先には、黒い影のようなものが立っていた。
その瞬間、恐怖に駆られた友人たちは、屋敷から逃げ出した。
一人残された私は、その影に引き寄せられるように進んでいく。
影は徐々に形を持ち、幼い顔が浮かび上がった。
見知らぬ子供。
彼の目はどこか悲しげで、消えた過去を思い出しているようだった。
「助けてほしい?」私は言葉を失い、彼に向かって手を伸ばした。
瞬間、彼は消えてしまった。
その瞬間、聞こえるはずのない声が耳に届いた。
「私たちはここにいるのに、帰れないんだ。」その言葉に心が締め付けられた。
気がつくと、空気が凍りつき、自分の姿が薄くなっていく感覚を覚えた。
周囲の明かりが消え、絶望的な暗闇に包まれた。
私は自分の存在が消えていくのを感じながら、仲間の声が遠くに響くのを聴いた。
思念のように戻っていく記憶の中で、私はいつしか存在そのものがこの小さな村と一体となって、消え去ってしまった。
朝、村の人々が廃屋を見に行くと、そこには誰もいなかった。
私の姿も、声も、記憶さえも消えてしまった。
村の禁忌は、また一つ新たな影を生み出すのだろう。
よもやこの村に関わる者は、同じ運命を辿ることになるとは知る由もない。