雪が静かに降り積もる北海道のある冬の晩、佐藤康平は友人たちとスノーボードを楽しんでいた。
彼らは宿泊施設から少し離れた山の中腹にあるゲレンデで、夜遅くまで滑り続ける予定だった。
しかし、気温が急激に下がり、山中は一層の冷え込みを増していた。
凍えるような風が吹く中、彼らは話し合い、下山することに決めた。
「もう遅いし、雪もひどくなってきた。早く帰ろう。」康平が言うと、他の友人たちも同意した。
山を下りる途中、彼らは不気味な気配を感じるようになった。
雪に埋もれた滑走道の脇、薄暗い木々の隙間から何かがこちらを見ているような感覚があったのだ。
しかし、寒さが厳しくなってきたため、彼らは気にせずに進むことにした。
宿泊施設に戻ると、康平は急に不安感に襲われた。
友人たちと談笑しているうちも、その不安は消えなかった。
無意識に窓の外に目をやると、雪に覆われた外の景色は静まり返った暗闇に包まれていた。
何かがいる…そのような感覚が康平の心を締め付ける。
「どうした、康平?顔色悪いぞ。」友人の中村が心配して声をかける。
康平は苦笑しながら「大丈夫、大丈夫。」と応じたが、気持ちはますます落ち着かない。
夜が更けるにつれ、その不安はますます強くなっていった。
その晩、康平の夢の中に奇妙な幻影が現れた。
白い服を着た女性が雪の中に座り、自らの手で何かを埋めていた。
彼女の背後には、淡い光を放つ人影がうごめいている。
無表情な顔で康平を見つめる彼女は、静かに声を発した。
「断ち切ってしまえば、楽になれる。」
康平は夢の中で恐怖を感じ、強く意識を戻そうとする。
しかし、その瞬間、目の前の光景は氷のように固まり、彼女はさらに近づいてきた。
康平は彼女の表情を見たとき、心の底からの恐怖がこみ上げてきた。
目を覚ました康平は、すぐに友人たちにその夢を話した。
しかし、彼らは笑い飛ばし、「疲れてるんじゃない?大丈夫だよ。」と慰める。
しかし、康平の心にはその夢が影を落としたままだった。
翌日、再びゲレンデに向かった彼らは、康平の奇妙な夢のことを忘れ、雪に覆われた景色を楽しむ。
しかしその日、康平の身の回りには奇怪な現象が続く。
スノーボードをしている最中に、急に滑りが悪くなり、友人たちとの距離がどんどん離れていってしまうのだ。
その感覚が強まると、自分が孤立していく恐怖がたまらなかった。
「康平、大丈夫?」中村が何度も声をかけるが、康平は気づけば一人、雪原の真ん中に立っていた。
周りには誰もいない。
そして、またあの白い女性の幻影が彼の目の前に現れた。
彼女は静かに言った。
「もう戻れない、断ち切ってしまえば楽になれる。」
康平は恐怖に駆られ、「何を断ち切るのか、教えてくれ!」と叫んだ。
しかし、女性は無言でただこちらを見つめている。
その瞬間、周囲の景色が急に暗く変わり、康平は雪の中に吸い込まれる感覚を覚えた。
気がつくと、康平は雪に埋もれていた。
必死に身体を動かそうとするが、操作できない。
恐怖と混乱の中、彼は信じられない声を耳にした。
「さあ、断ち切って、楽になりなさい。」
康平は絶望に駆られ、そっと目を閉じた。
彼は知っていた。
自分が選んだものの全てを断ち切らなければ、決して抜け出せないことを。
風の音とともに、その声は遠くなりながら、彼を雪の中で静かに包み込んだ。
翌朝、友人たちが康平を探しに来るが、彼の姿はそこにはなかった。
すべての人間関係や思い出を断ち切らなければならないという恐ろしい運命が、雪の中に隠されていた。
康平の声は、もはや誰にも届かない。