静寂に包まれた寺。
その所在は、村人たちの記憶の彼方に埋もれ、ほとんど訪れる者はいなかった。
寺の名前は「隠れ寺」と呼ばれ、かつて大きな災厄に見舞われたという伝説が伝えられていた。
繁茂した木々に囲まれた境内には、時折風が吹き抜け、そのたびに古びた石灯籠がかすかに揺れた。
主人公は、若い女性の美音(みおん)。
彼女は両親を事故で亡くし、その悲しみの中で自分の存在意義を求めていた。
美音は不思議な引かれ方をして、隠れ寺に向かう決心をした。
彼女の中には、両親に何かを「償う」気持ちが芽生えていたのかもしれない。
寺に足を踏み入れた瞬間、彼女は尋常ならざる静けさに包まれた。
薄暗い本堂には、一枚の掛け軸がかかっている。
その表には、何か意味深い文字が書かれているようだ。
しかし、視線がそこに留まることはなかった。
彼女の心は、どこかほかの場所に連れてかれているように感じた。
美音はふと、寺の奥にある隠し部屋の存在を思い出した。
かつて、村の長老から聞いた伝説では、その部屋には苦しむ魂たちが閉じ込められているという。
彼女は、両親を失った悲しみをこの寺でどうにかしたいという一心で、ゆっくりと奥へと足を進めた。
暗い廊下を進むと、かすかなひんやりとした空気が彼女の肌を撫でた。
そして、彼女はついに隠し部屋の扉を見つけた。
そこには、古びた木製の扉がかすかに隙間を開けていた。
美音は一瞬、躊躇したが、両親の笑顔を思い出し、扉を開けることにした。
部屋の中は薄暗く、陰影が彼女の存在を包み込んだ。
だが、惜しむようにじっと見つめるその先には、何か得体の知れないものが存在しているようだった。
瞬間、彼女は「償い」を果たすためにここに来たのだと悟ったのだが、同時にその行為が何をもたらすかを理解することはできなかった。
隠したもの、隠れたものの中には、彼女の両親が犯し続けた「約束」が潜んでいる。
子供を大切に育てるという、深い愛情の誓いである。
だが、彼らは何かの事情でその約束を果たせず、結局、自らの命を失ってしまった。
部屋の奥からは、ぼんやりとした影が浮かび上がってきた。
それは、長い髪を持つ女性の姿であり、彼女の両親の姿が重なって見えた。
幽霊となった彼らは、美音を見つめ、彼女に語りかける。
「私たちを忘れないで。私たちのことを思い出してほしい。あなたには、私たちが隠した約束を思い出す力があるのだ。」
美音は身体が凍りつく感覚を覚えた。
「ごめんなさい、私もあなたたちを忘れかけていた…」心が闇に覆われた瞬間、彼女は涙が溢れるのを感じた。
その時、部屋全体が揺れ始め、目の前の影が彼女に向かって発せられた。
「私たちを償って、そして忘れないで。この寺があなたに与える運命を受け入れるのだ。」
美音は、両親の姿が淡く消えていくのを目の当たりにし、自分の胸の痛みが深まるのを感じた。
隠れ寺は、彼女に過去を思い出させ、約束を再び結ばせる場所だった。
寺の外に出たとき、美音は心の中に何か大切なものを取り戻したように思えた。
彼女は、隠れ寺の存在を大切にし、償いの旅を進めることを決意した。
もう二度と両親を忘れることはないだろう。
暗闇の中で見つけた光、それこそが彼女の「隠れた」約束だった。