雨がしとしと降り続く薄暗い夜、清志は古びた町外れの神社を訪れた。
幼少期から受け継がれる家業で、この神社の管理を任されている彼だったが、最近は参拝者も少なく、寂れた雰囲気が漂っていた。
彼の心の中には、何かが隠されていると感じる不安があった。
その神社には「界」と呼ばれる神聖な場所が存在し、そこには人間の持つ思念が集まると伝えられていた。
清志の家系は何代にもわたり、その界を守り続けてきた。
しかし、近年、界が不安定になっているという噂が立ち、気がかりな日々が続いていた。
ある晩、清志は神社の裏手にある古い祠に目を留めた。
普段は目に入らなかったその場所だが、何かに引き寄せられるように、彼は歩み寄った。
表面は剥がれ、朽ちかけた木扉を開けると、そこには真っ黒な空間が広がっていた。
まるで、物が隠されているかのような重苦しい気配。
恐る恐るその空間に足を踏み入れると、清志の視界に入ったのは、昔の記憶が映し出されたかのような映像だった。
彼の幼いころ、家族で神社を訪れたときの幸せな瞬間、笑顔で過ごした日々…。
しかし、その映像は徐々に変わり、無表情の人々や、悲しみに暮れる母の姿、さらには彼が恥じらいを持つ数々の過去が浮かび上がった。
彼はその映像の中の自分を見て、思い出した。
過去の辛い思い出は、彼が自ら隠し続けてきたものであり、それが界を揺るがしているのだと。
清志は、何が真実なのかを知りたくなり、その空間に没頭した。
さらに奥に進むと、目の前には小さな箱が現れた。
それは祖父から受け継がれた祭壇の一部で、何か特別な意味があるようだった。
不安と好奇心が交錯する中、清志はその箱を開けてみた。
中には、彼が幼少期に作ったと思われる、小さな泥人形が入っていた。
表情豊かで、そのどこか懐かしい顔は、彼の無邪気な日々を思い出させた。
しかし、その人形だけではなかった。
彼はさらに手を伸ばし、もう一つの人形を見つけた。
それは、彼が思い出したくもない暗い過去を象徴するものであり、彼の心の奥深くに安置された影でもあった。
「還るべきは、何か…」清志は考えた。
今まで自らの心の中に押し込めてきた思い出や感情を向き合わなければならないということに気づいたのだ。
自分の心の声を無視し続けた結果、周囲の界を混乱させていたことに、清志は初めて気がついた。
清志は意を決し、自らの思い出と向き合うことにした。
泥人形を手に取り、自分が抱えていた感情を一つ一つ語り始めた。
悲しみ、悔しさ、恥ずかしさ、そして、自分の弱さを認めること。
それらを夜の闇に解放するにつれて、彼の心は軽くなり、次第に不安が消えていった。
すると、空間の色彩が変わり、沈黙が破られた。
彼の言葉が界に響き渡り、かつての記憶とともに、人形たちも笑顔で応えた。
彼の心が解放され、過去を受け入れることで、界は安定を取り戻していくのが感じられた。
暗闇を抜け出した清志は、神社の外に出ると、雨が上がったことに気づいた。
夜明けの光が美しく差し込み、彼は新しい一歩を踏み出す準備を整えていた。
過去を隠すことなく向き合った今、清志は自分自身を解放し、新たな未来へと進んでいく決意を固めたのだった。