青森県にある古い学校。
そこには、夜になると決して近づいてはいけないという噂の教室があった。
生徒たちはみなその教室を「闇教室」と呼び、決して足を踏み入れないようにしていた。
しかし、ある新入生の佐藤遼は好奇心からその教室に興味を抱いていた。
遼は、学校の先輩から聞いた話を思い出していた。
「闇教室には、形を変える物がある。その物を手にした者は、闇に飲まれてしまう」と。
彼はその噂を信じてはいなかったが、心のどこかで不安を感じていた。
しかし、ある日の放課後、遼は友人の中村ゆうと一緒に、その教室に忍び込むことに決めた。
学校は静まり返り、夕陽が校舎の廊下を橙色に染め上げていた。
恐る恐る扉を開けると、中は薄暗く、埃が舞っていた。
教室の中央にぽつんと置かれた机の上には、何か不気味な物体が置かれていた。
「これがその物か?」遼は声を潜めながら友人に言った。
中村は恐る恐る近づき、物体を観察した。
「なんだ、ただの石じゃないか」と言ったが、遼の目にはその石が微かに光を帯びているように見えた。
遼はその石を手に取り、興味津々で触ってみた。
触れた瞬間、何かが彼に訴えかけてくるような感覚があった。
「これ、持って帰ってもいいの?」遼は中村に尋ねた。
中村は怖がるように「やめろって、何かまずいことが起こりそうだ」と言ったが、遼はすでにその物に引き寄せられていた。
翌日、学校に着くと、遼の様子が変わっていた。
彼の表情にはどこか暗い影が宿り、目は虚ろになっていた。
「お前、大丈夫か?」と友人たちが心配そうに尋ねるが、彼はただ「問題ない」と冷たく答えた。
日が経つにつれ、遼は次第に孤立し、闇の中で漂うような行動をするようになった。
教室の中で一人きりで過ごす時間が増え、心の中には不安と恐怖が広がっていた。
彼はあの物体に対して強い依存を抱くようになり、物の存在が日常の中で消え去りつつあった。
ある晩、遼はその物に呼び戻されるような感覚に捉われ、夜中に学校に忍び込んだ。
廊下は静まり返り、暗がりの中で自らの足音だけが響く。
教室に辿り着くと、石は以前よりも輝きを増しているように見えた。
「私を受け入れなさい」と、どこからともなく声が響き渡る。
恐怖と好奇心が交錯し、遼はそのまま物に手を触れた。
次の瞬間、教室の空間が歪み始め、周囲の光が消え、新たな形が現れた。
それは先ほどまでの石ではなく、暗い影の集合体であった。
その影は遼に近づき、「お前の闇を見せてくれ」と囁いた。
遼は自分の心の深い部分に隠していた恐れや孤独、嫉妬が次々と表面化するのを感じた。
その夜、遼の行動はますます異常になり、闇教室での出来事を語る者は誰一人として恐れから口を閉ざした。
遼はもはや普通の生徒ではなく、形を変えた存在となり、周囲の人間に気づかれないまま消えていった。
彼が消えた先に待っていたのは、自己の内なる闇と向き合う運命であった。
そして、彼の姿は闇教室の中に永遠に取り込まれ、今度は新たな好奇心を持った者を待っているのだった。