彼女の名は莉子。
大学の夏休みに、友人たちと一緒に北海道の山奥にある洞穴を訪れることに決めた。
洞穴は地元の伝説にまつわるもので、入ると心の中の恐れが蔽われてしまうと言われていた。
しかし、好奇心に勝てず、莉子はその暗闇に飛び込むことにした。
彼女たちは洞穴の入り口に立ち、松明を手に持ってそれぞれの思い出を語り合った。
その時、彼女の心にある小さな後悔が浮かび上がる。
「本当に来て良かったのだろうか。」友人たちは笑い合っていたが、莉子の心には何かが失われていくような不安が広がる。
その不安を振り払うために、彼女は意を決して洞穴の奥へと進んでいった。
暗闇の中、彼女たちは互いに励まし合いながら進んでいたが、次第に話し声が小さくなり、静けさが支配するようになった。
辺りはただ静かで、息を潜めているような空気が流れていた。
洞穴の深いところにたどり着くと、彼女たちは驚くべき光景を目にすることになった。
壁には奇妙な模様が刻まれ、何かが動いているように見えた。
ただの光の影だと思ったが、莉子はそれが自らの内面の恐れが形を持っているかのように感じた。
「見て、あれ!」友人の美佳が叫んだ。
彼女が指さす先には、影のように黒いものがうごめいていた。
まるで生き物のように見えるそれは、莉子の心の底に潜んでいた恐れを引き出しているようだった。
その瞬間、彼女の心は一気に焦燥感に襲われた。
何かを失ってしまうという恐怖が、彼女の体を引き裂くように突き刺さる。
「出よう、ここは危ない!」とつい声を張り上げる。
友人たちも一斉に後ずさり、洞穴の出口へと急いだ。
しかし、莉子は何かが心の中で「いる」と囁いているのを感じた。
何が背後で起こっているのか、全貌は分からなかったが、恐れの影が彼女を止めていた。
次の瞬間、莉子の前に現れたのは彼女自身の姿だった。
だが、それはどこか異形で、目は虚ろで、笑っているのだが、そこには心はなかった。
莉子はその姿を見た瞬間、全てを思い出した。
過去の失敗、ひた隠しにしていた後悔、自分を責めた記憶が一気に押し寄せてきた。
「どんなにあがいても、私は私を失くすことはできない」と、光の中に輝く自分に言い聞かせるが、後ろからは恐れが迫ってきた。
「助けて、出して!」と叫んだが、出口はどこにも見当たらない。
その時、ふと心に浮かんだのは、友人たちの笑顔だった。
彼女たちの存在が、今の莉子を支えていることに気づいた。
莉子は勇気を振り絞り、もう一度出口へ向かうことを決意した。
自分の過去を背負い、見失った自分を取り戻すために、彼女はその影に立ち向かう決心をした。
「行くよ、みんな!」莉子は前を向いて叫んだ。
友人たちもその声に勇気づけられ、出口へと急いだ。
その瞬間、影は消え去り、恐れが少しずつ薄れていくのを感じる。
洞穴から抜け出したとき、彼女たちの心には確かな光が差し込んでいた。
失ったものと向き合い、新たな一歩を踏み出す準備が整ったのだ。
恐れに打ち勝った先には、希望が待っていると信じることができた。