「闇に潜む讐の影」

洞窟の深い闇に、抱(だき)という名の男性が一人佇んでいた。
彼は一度も人に語ったことのない秘密を抱えていた。
町の人々は抱を「普通の男」と思っていたが、実際には彼の心の中には恐ろしい「讐(あだ)」が潜んでいた。
それは、過去に自分を裏切った親友の存在だった。

親友の涼(りょう)は、抱の信頼を裏切り、彼の恋人である美咲(みさき)を手に入れた。
二人の裏切りによって、抱は深い孤独と恨みを抱え、やがて町を離れ、この洞窟に逃げ込んだのだった。
彼は自らの恨みで心を癒すために、あえてこの暗闇を選んだ。

洞窟の中は静寂に包まれていた。
抱は、恨むべき二人の名を繰り返し呟き続けた。
「涼、美咲……お前たちのせいで、俺はこんなところにいるんだ。」その言葉は、彼の耳にさえこだまし続けた。
抱は身体が震えるほどの怒りを感じ、この洞窟の奥深くに進んでいった。

その時、洞窟の暗がりから微かな光が漏れているのに気がついた。
抱は好奇心に駆られその光を目指して歩き続けた。
何かが自分を待っているように感じたからだ。
やがて光の先に到達すると、そこには奇妙な石碑が立っていた。
碑に刻まれた文字は、彼が知らない古代の言葉だったが、「恨みを抱く者よ、癒しの力をここに求めよ」と読めるようだった。

驚きつつも抱は、その碑に手を触れた。
温かな感覚が彼の身体に広がり、同時に洞窟の奥から囁き声が聞こえてきた。
「お前の恨みが癒される時、真実が明らかになる。」その言葉に引き寄せられるように、抱はさらに深く進んだ。
声の主は誰なのか、何を意味するのか、彼の心は期待と不安で揺れ動いていた。

さらに進むと、洞窟の奥で大きな空間に出た。
そこには涼と美咲が、楽しそうに笑い合いながら座っていた。
しかし、彼らは気づかず、抱の姿は見えない。
抱はその瞬間、胸が締めつけられるような痛みを感じた。
彼らは自分を裏切った張本人であり、今でも幸せそうに仲良くしている。
この情景が彼に何をもたらすのか、と彼は思った。

抱は怒りに駆られ、叫んだ。
「お前たちを許さない!」その声が洞窟中に反響し、涼と美咲は驚いて振り返るが、彼の姿は見えない。
抱は続けて呟いた。
「私を無視して、幸せに生きることは許さない!」そして、彼に自然と流れ込んできたエネルギーが、周囲に影をもたらした。

すると、洞窟の空気がかき乱れ、涼と美咲は恐怖に顔をこわばらせた。
強烈な怒りが溢れる中、抱の姿が徐々に現れる。
その瞬間、彼は洞窟の中心に立ち、全ての感情が集中していくのを感じた。
「お前たちの罪を思い知れ!」抱は叫び、暗闇の力を彼らに放った。

すると突如として、涼と美咲は一瞬のうちに恐怖に包まれ、目の前が真っ暗になった。
それはまるで、二人が自ら選んできた楽しみを奪われたように思えた。
抱は二人が絶えず楽しんでいたその幸せを、その瞬間に打ち砕くことができた。

その後、洞窟は静寂を取り戻し、抱は放心したように立ち尽くしていた。
彼は心の奥底に湧き上がるものを口に出す。
「私はお前たちを許さない。でも、私をここから解放してくれ!」彼は洞窟の空気に向かって叫び、恨みを捨てようと決意した。

抱がその場に残ったことで、彼はほんの少しだけ心が癒されたように思った。
讐の呪縛から逃れ、新たな道を進むための第一歩となることを願って。
彼は二度と戻りたくないと、自らに誓いを立てた。

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